01.
空が白く青く、
そしてオレンジから紫、紫から紺色に変わる様に
想いも毎時毎分色付いて変化していく
monochrome mood
mood.1 red
好きな人なら沢山居た。
蔵や謙也、千歳に小春ちゃん、テニス部の皆が大好きだった。
でもね
中でも光とユウ君は特別で、もっと言えばユウ君のことを愛してた。
“お前顔色悪いけど大丈夫か?”
出逢ったのは2年前の冬。
寒い寒い日で雪がちらついてた受験日だったよね。ねぇ、今も覚えてる?アタシは覚えてるよ。
緑のバンダナを付けた笑顔を。
「あーあ…」
出てくるのは溜息ばっかりで、広くて青々とした空に腹が立った。
空から見ればアタシの息なんて小石が転がるにも満たないちんけなモノなんだって言われてるみたいで…全てが虚無感に見えた。
『ついにフラれたん?』
「、ひかる、」
『飲む?』
突然横に現れたのはブラックコーヒーを片手にした光で、授業中なのに何してるの?まぁアタシもそうだけど。
「お汁粉じゃないなんて珍しいね」
『汁粉だけで生きとる訳ちゃうねんけど』
「えー、そうなの?」
半分くらいしか残ってないブラックを含むと、口の中が苦くて苦くて顔が歪む。
そんなアタシを見て『ガキ』の一言だけど光の顔は優しかった。
「ひかるー、」
『ん?』
「恋愛って難しいよね」
今日だっていつもと同じ毎日のひとつだった。
ユウ君が居て、アタシが居て、馬鹿みたいに笑って。そんな毎日だと思ってた。
『…何言われたんスか』
「んー、アタシの事“好きになりたくない”って」
突拍子なんか無くて、前触れも無くて、突然言われた言葉。
周りからは『付き合ってるんでしょ』とか『ラブラブ』とか言われてたけど付き合ってる訳じゃなくて、だからこそどうしてそんな事を言われるのか分からなかった。
だけどひとつ分かってる事は、ソレに自惚れて調子に乗る自分が居たってこと。
『恋愛、簡単やと思うけど』
「え?」
『何言われたって決めるのは自分やろ』
「…………」
アタシが決める?
ユウ君を好きで居るか、諦めるか…
アタシが選んで良いことなの?
『それに、裏を返せば“好きや”て言うてる様に聞こえるんやけど』
「そうなのかな…」
『さあ?』
「でもどっちにしろアタシを好きだと思いたくないって事でしょ?だったら、」
『どう受け取るんも名前先輩の自由ですわ』
アタシの手からブラックを奪って残りを飲み干す光は空いた缶を誰も居ないグラウンドに投げ捨てた。
「ひ、光!それはマズイって!」
『簡単やろ?』
「、」
『缶やって投げたら簡単に飛んで行くんや。人間も同じ。意志ひとつでどうにでもなりますわ』
光の言ってることは難しくて理解しかねるけど、何となく、意味が分かる様な気もした。
屋上から大きな孤を書いた缶は暫くしてグラウンドに叩きつけられて、光は満足そうに笑う。
「ひかる?」
『あれがユウジ先輩』
「は、ユウ君?」
『名前先輩が悩んどるみたいやからグラウンドで休憩でもして貰て、』
「、ひか――――……」
消えたはずのコーヒーの苦味が過る口内は、スルッと飲み込める液体から感じるモノなんかじゃない。
引き寄せられる腰と固定される頬
そして口唇が
ユウ君じゃなく光を観ていた。
『名前先輩は気分転換がてら』
「…………」
『悪い女になってみいひん?』
アタシにとって光は、嬉しい時も哀しい時もいつも傍に居てくれた一番の理解者で、その居心地の良さが大好きだった。
だからね、光に彼女が居る事を知ってたとしてもアタシはこの誘いに頷かずに居られなかったんだ。
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