明日春がきたら | ナノ


 


 take.09



僕だけの君じゃない
君だけの僕じゃない


だけど茜色に染まる僕は君だけに向けたものだった





take.9 茜色の瞼





『謙也お待たせ!』

「ん、ほな行こか」



名前のバイトが終わるまで雑誌を読んでたら、コンビニの制服から着替えた名前が俺の背中を叩いた。

手に持ってた雑誌を棚に戻そうとすると、



『あ、ちょっと待って』

「どないかした?」

『ちょっとねー!』



思い出したかの様にレジへ走ってく名前。
忘れ物でもしたんやろか。せやけど、こうやって送り迎えしたり、場所がコンビニやとしつもデートしてるみたいで嬉しい、なんて。付き合う事が出来たらこんな風に毎日一緒に居りたい。純粋にそう思た。

でも、



『謙也謙也、これあげるー!』

「お汁粉買うてたん?おおきにー!」

『冬はお汁粉で暖まるんが一番だよね!光が好きなんだよ』

「財前が…」



名前の中には財前でいっぱいなんや。

財前が倒れた時、真っ先に駆け寄って『光、光、』って涙目で手を握った。
熱あるだけやから心配ない、授業行く様に言うたけど『嫌だ!光と一緒に居る!授業なんか受けなくていい!』そう言うて俺なんや眼になかってん。



『謙也はお汁粉嫌いだった?』

「ちゃ、ちゃうねん、好きやで」

『本当?良かったー!でもアタシはやっぱりチョコが好きだからココアのが好きだけどね』

「ココアも美味いもんなぁ」

『でしょ!?絶対ココアだよね!』



それでもお汁粉を買うて来たんは、財前と同じ物好きになりたいからなんちゃうん…?



「…………」

『謙也?』

「名前、お前にとって…」

『え?』

「名前にとって財前て、どんな存在なん…?」

『……………』



聞きたくない。せやけど聞いてしもた。
わざわざ名前に聞きやんと今でも十分財前が特別で好きなんも分かってんのに。
これ以上惨めになりたいわけちゃうのに。



『アタシにとって光かぁ…』

「………」

『そんな事初めて聞かれた!』



お汁粉を飲み干して、近くにあった空き缶用のゴミ箱に入れるとカコン、とスチール独特の音がして。
振り返った名前は優しく笑て口を開いた。



『アタシが小学生の時、東京から大阪に来て初めて出来た友達だった。パパとママとご近所の挨拶に行ったら光だけがアタシと歳が近くって』

「うん…」

『その頃から光は今みたいに飄々としてて掴めないタイプだったけど…アタシが学校から帰る時にクラスの子にからかわれて――』




‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



『お前の喋り方可笑しいねん』

『大阪で標準語喋んなや』

「そんな事言われても、」

『なんやねん、めっちゃ生意気や』

「やだ、痛いから髪の毛引っ張らないで!」

『それがムカつく言うてんねん!』



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



「、それで、クラスの子に殴られたん?」

『ううん。殴られたのはクラスメイトだった』

「え?」

『殴られるって思ってアタシが目を瞑ったら光が居たんだ。“お前等格好悪い事すんな”ってその子達の頭に拳骨だよ!もうアタシビックリしちゃって。仮にも光は年下なのに』

「財前が拳骨か…想像つくようなつかへんような…」

『でしょー?それで次の日から余計アタシは皆からコソコソ悪口言われるようになったんだけどさ、休み時間毎に光が来てくれて嬉しかった。まぁ光のせいって言ってもおかしくはないけど』

「…………」

『でもね、光はアタシが辛い時いつも一緒に居てくれて、“名前が泣かされた時は俺がやり返したる。俺がお前の味方になったるから”って約束してくれたの』



だから光はアタシの特別なんだ。
光が居たからアタシは笑えるんだよ。



そう言うた名前は今まで見た事ないくらい幸せそうな顔してた。
こんなん、俺が適う訳ないやんって思わずにおれへんかったんや。

財前にとって名前は友達とか彼女以上に大事やって言うたんはアイツを守ってきたんが自分やから。
逆に名前も同じ。財前は絶対的な存在。



「…ええなぁ、そういう関係…」



財前が羨ましくて。財前が格好良くて。
何で俺は財前より早く出逢えへんかったんやろって、めっちゃ悔しかった。



「それに比べて俺は…名前が昔苦しんでた時、何してたんやろ…」



名前の存在知らへんかったんやから仕方ない。そう言えばそれまでやけど、過去に戻れる事が出来たなら俺もアイツの1番になれたかもしれへんって…今さら俺が何してやれるん?



『何言ってんの?』

「、やな…俺何阿呆な事言うてるんやろ」

『そうじゃなくて!謙也だって此処に居るじゃん!』

「え?」

『謙也だってアタシの友達になってくれた。アタシは謙也も居ないと嫌だよ?』



名前は背伸びして俺の頭をわしゃわしゃ撫でてくる。



『謙也大好きだよ。これからもアタシと一緒に居てほしいな』

「…………」

『…嫌?』

「…嫌なわけ、ないやん…」



猫っ毛な頭がグシャグシャになっていくけど髪の毛なんかどうでも良くて。
笑顔で俺に触れてくれる名前の優しさが染みて瞼が熱くなった。

俺、好きなん止めれそうにないわ。





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