sequel.14
an ecstasy (1/2)
唯物論、
君が居る限りこの想いは消える事なく存在するんだ
sequel.14
an ecstasy
ピンポーン
インターホンを鳴らすと、ドアの向こうからドタバタ足音が聞こえてガチャ、とドアが開いた。
「あ『ひーかーるぅぅぅう!!!』、!」
ドアが開いた瞬間、挨拶をする間なく飛び付いて来たのは名前やった。
てっきり違う人物が出て来ると思てた俺はちょっとビックリして。
それでも俺の手はしっかりアイツの背中にあるんやけど。
「名前、部長は?」
『知らない知らない、アタシには光が居るもん』
「…………」
部長に会うんは久しぶりやけど、名前に会うんは1週間ぶり。
確か先週までは“蔵ってば格好良くて尊敬する”とか言うてたはずやで。
まぁ、俺に乗り換えるならいつでもドーゾっちゅう感じやねんけど。
「話は中で聞いたるから、とりあえず部屋入れて」
『…光、優しい…!』
入って入って、と通された部長の部屋は、今じゃすっかり2人で生活する空間になってて大学当初の独り暮らしの面影なんや無かった。
「新婚、っちゅう感じやな…」
『結婚した覚えはありません!!』
珍しく機嫌悪い名前に、何があったんやとは思うけど。
アイツが部長と付き合い始めて4年。俺は4回生になったし、部長と名前は社会人になったし。なんやかんや言うて今まで仲良くやってきたんやからどうせ大した事はないと思う。
そもそも、今日俺が此処を訪ねた理由が部長からの1本の電話やった。
『財前、明日一緒に飲まへん?』
部長に会うんは久しぶりやったから2つ返事で答えて、時間や場所を聞くと、
『俺ん家、夕方くらいに行っといて』
「夕方?そない早よ仕事終わるんです?」
『今日で落ち着きそうやねん』
そんな感じやった。
今思えば初めから名前のストレスの捌け口に俺が使われた気がせんでもない。でも逆に言うたらアイツの事考えてあげてるっちゅう訳で。
いつまで経ってもそういうとこ変わらへんなぁって思た。
『紅茶とコーヒーどっちがいい?』
「コーヒー」
名前がテーブルに2つコーヒーを並べたのを合図に俺は聞いてみた。
「で?部長と喧嘩でもしたん?」
『……してない』
「ほな何でキレてんねん」
『別にキレてな…い訳じゃないけど…』
「なんで?」
『だって蔵ってば……』
少し口を尖らせたアイツによると、最近部長は仕事が忙しくて帰って来るんは午前1時2時、勿論休日返上で休みも無かったらしい。
仕事ならしゃーないからって、それについては名前も前に会った時言うてた。
そやったら何が気に入らへんねん。そう思た瞬間、バン!とテーブルの上にあるコーヒーが零れてしまいそうな衝撃。
『そっからが問題なのよ!!』
「ちょお落ち着きや」
『落ち着いてられるかっての!』
「…………」
とばっちりが来るんも嫌やし、俺はそのまま口を閉じてアイツの話に頷くだけにしようと決めた。
『でね、昨日も2時過ぎに帰って来たんだけどさ!』
「うん」
『“明日は定時で帰るで”って言ってたからアタシ嬉しくて。だから久しぶりに外でご飯食べようって言おうと思ったの。そしたら何て言ったと思う!?』
何て言うたかやなんて。
俺が呼ばれたあたり想像つくんやけど。
『“明日財前来るから飯宜しくな”だよ!?』
やっぱり。
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