sequel.14
an ecstasy (2/2)
『光の為なら仕事も早く終わらせるんだよ!!本当ムカつく!』
「………」
名前からしてみれば、そう思うんも仕方ないわ。
かれこれ3ヶ月くらいはそんな生活やって聞いてたし。
「ほな今日は此処で飯食うん?」
『みたいですよ!』
「みたい、って…他人事ちゃうやん」
『だってムカついたからアタシは友達と約束したもん』
「え?」
『だから光は蔵とごゆっくりどうぞ!』
うわー、痴話喧嘩に巻き込むん止めてほしいんやけど。
それにしても部長も、
「ホンマの事言うたらええのに」
『え?ホンマの事?』
「いや、何でもな《ピンポーン》」
俺が口を滑らせかけた時、タイミング良くインターホンが鳴って部長の『ただいま』っちゅう声が聞こえてきた。
『あ、帰って来た!じゃあアタシは行くね!』
「もう行くん?」
『当たり前よ!!』
『名前ちゃん、財前来てる?』
ネクタイを緩めながら部屋へ入ってきた部長を名前は睨み付けて後、
『来てますよ。アタシはアタシで楽しんで来るんでごゆっくり』
そう笑顔でドアを思いっきり閉めて出て行った。
『え、名前ちゃん出掛けるん?』
「部長と顔合わせたないって友達と約束したらしいですよー」
『は、ホンマに!?』
「ホンマ」
『怒ってんねんな…』
「ストレス溜まってるで、アレは」
ハァ、と溜息吐いて俺の前に座る部長。
スーツに身を包む姿は大人な男って感じで、1つしか違わへんはずやのにもっと歳が離れてる気さえした。
「部長も黙ってへんとホンマの事言うたらええやん」
『…………』
「転勤せえへん為に別の仕事してるんやろ?そう言うたらアイツも分かってくれると思うんやけど」
部長の仕事が忙しいホンマの理由。
それは、社長から地方への移動命令があった時に始まった。
名前は大阪が好きや言うてたし、何より友達が居って俺が居る、その環境を取り上げたくなかったらしい。部長が地方へ行く事になったら当然アイツもついて行くやろうから。
そう思た部長は社長に頭下げて転勤取消し要請を出した。
普通はこんな事通るほど甘くない世界やけど、社長は快く受け入れてくれたんや。せやけど、1つ条件があった。
その条件とは、最近社長が新事業を展開するに当たって落ち着くまでの手伝いをする事。昼間は会社、夜はまた別の仕事、部長は1日働きっぱなしやったんや。
『そんなん言えへん』
「何でです?」
『転勤嫌やって駄々こねたやなんか…格好悪いわ…』
「……………」
そう言って、部長は冷蔵庫から2本缶ビールを出して口に流し込んだ。
格好悪い、か。
俺はそう思わへんけど。
結婚もしてへんのにアイツの為に働く。それは格好良え事ちゃいます?
少なくとも、俺はアンタが格好良えと思うで。
『あ、せや財前、アレどうなってる?』
「ちゃんと決めてきましたよ。コレでどんな?」
『…………、ええやん』
「無理言うて鍵借りてきたんやから最後は自分の目で決めや部長」
『阿呆言うな。お前に頼んだんやから決定やわ。無理言うて悪かったな』
「別に。それで名前が喜ぶんならええわ…」
『ホンマ、お前も名前ちゃんが好きやねんなぁ』
「……一言多いわ」
俺が渡した1枚の紙きれと鍵を手に、部長は柔らかく笑ってた。
時間は流れて周りや環境は変わるけど、たったひとつ変わらないもの。
それは君の幸せを願う事。
(story.13 END)
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