Sincere love | ナノ


 

 story.6
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君が幸せならそれだけで


そんな事を言ってみたって何処かでほんの少し期待してる

このまま君の心を奪えたらと





story.6
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『……………』



部長の家へ向かう途中タイミング良くか悪くか本人に会うてしまった俺と名前。

自分ではない別の女と居るんを見て、アイツの眼はユラユラ揺れてた。



「名前、」

『…………』



部長が行ってしもた後もずっと、見えへんなった部長の背中を見てるアイツが感傷的やってん。




“名前ちゃんの事頼む”

そう電話があった時は何を笑えへん冗談言うてんのかってめちゃくちゃ腹立った。

せやけどよくよく聞いてると部長の声は途切れ途切れで、自信に溢れて笑うあの人は居てへんかった。それは改めて聞かずとも分かること。


何かあったんやな、って。


あの人は自分の落とし前は自分で付けるタイプや。せやのに俺なんかに頼んでくるって事はどうする事も出来ひん状況やねん。

気付いた時には俺は名前の家まで行ってて、息を切らせてた。せやのに幾らチャイムを鳴らしても出て来おへんし鍵も閉まってる。

これ、ホンマヤバイんちゃう…?
そう焦りながら名前の携帯へ電話を掛けると本人が出てとりあえず安心した。
せやけど名前は、忍足さん家に居るとか言うし。正直それは許せへんかった。


やってそうやろ?
アイツは部長がええんや言うて俺を振ったんや。やのに忍足さんと居るって意味分からへん。部長と何かあったら次は忍足さん?……せやったら俺は何の為に居てるんや。
こんな時ですら頼ってもらえへん自分にムカついて、少しくらいでへこたれる名前にムカついた。

お前が部長を想う気持ちはそんなもんやったんか?



ここは名前が“居るべき場所”ちゃうやろ



その俺の問いにアイツの顔はハッとして俺の眼を見た。
その瞳は迷いも無い真っ直ぐなもん。

せや、お前は部長やないとアカンのやろ…?部長の隣やないと笑えへん、そんな女や。
俺が惚れたんやって、部長の隣で笑てたからなんやから。



“蔵にフラれたんだ”



そんな訳ない。そんな事あるはずがない。
初めは耳を疑ってたけど、名前の話を聞いてるとホンマらしくて。せやけどな、お前は気付いてへんのかもしれへんけど部長は“会わん”そう言うただけ。別れるなんか一言も言うてない。

何かがそうさせてる状況やったにも関わらず“別れる”って言いたなかったって事。何で気付かへんのやボケ。それこそがあの人の愛情やねん。



お前は部長に伝える事あるやろ?



あの人の愛情には気付かへん鈍い女やけど、お前はせなアカン事がある。
お前の素直の気持ちを伝えるっちゅうこと。このまま大人しく引き下がるとか俺が認めへん。気の済むまでぶち当たって納得してこい。


そして会うてしまった俺等と部長。

部長の横に居てた女は確か前に告白されたとか言うてた奴。
一気に謎が解けた気がした。
部長はあの女に何かしら言われたんやなって。自分じゃどうにもならへん事されてしもたんやって。

せやから俺は部長の立場を汲んで名前と付き合うてる、なんか嘘言うたんや。



『ひかる…』

「なんや」

『蔵、あの人と付き合ってるって言ったよね…?』

「…否定はせんかったな」

『……っ、アタシの事、嫌いになっちゃったのかな…』



何泣いてんねん阿呆。
お前は馬鹿すぎる。目の前の事しか見えへんでどないするんや。



「名前、お前が好きやった部長はどんな男や」

『…え?』

「どんな男やったかって聞いてんねん」

『な、に…急に…』

「ええから言うてみ」



お前が感じてきた白石蔵ノ介っちゅう男がどういう奴やったんか。よお考えろ。



『……、優しい人』

「他には」

『か、格好良くて優しくて、…いっつも幸せな気持ちにさせてくれて……』

「ソレ」

『え?』

「幸せな気持ちにさせてくれたんは何でや?」

『ど、どういう意味――』



俺がハッキリ言わな分からへんのか?
それくらい自分で気付かんかい。



「部長は、お前が一番大事やから幸せにしてきたんやないんか?」

『…………』

「名前の事を一番に、それしか考えへんような男やったんちゃうんか」

『…アタシの事を……?』



せやから、こういう道を選んだんやろ。

さすがにそこまで言わんでもやっと気付いたみたいで、またボロボロ涙を零し始める。



「もう、平気やんな?」

『うん…ありが、と…』

「ほな俺行くで?」

『うん』



泣いてるアイツを置いて俺はそれでも歩き始める。
ホンマは傍に居たかった。せやけど、もうひとつ。



「俺はせなアカン事あんねん…」



もうすっかり辺りは暗くなってて、変に騒がしい街へと色づいていく。

灯りはギラギラしててそれはうざったいくらいやけど、今の俺には眼に入らへんくらい目的の場所しか見えて無かったんや。


目的の場所へ着くなり携帯を取り出して発信ボタンを押す。



「もう帰ってます?白石部長」

《な、なんやねん…》

「落とし前、つけに来たんやけど上がってええですか?」

《…………》



そこで電話は切れて、ガチャリ、と鍵が開いた。
容赦なくドアを開けると、眼を真っ赤にさせた部長が居った。



「……凄い顔、」

『うっさいわ…』



さすがに、部屋の中まではあの女の姿は無くて安堵の溜息をついてソファーに座った。

泣いてたんやろかこの人も。
どいつもこいつも阿呆ばっかりや。






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