Sincere love | ナノ


 

 story.6
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『で?』

「で、って。言いたい事分かってるくせに」

『…………』



部長は黙り込んでテーブルに置かれてた煙草に手を伸ばした。

この人は普段絶対吸わん人。前に一時期荒れくれた時以来や。煙草に走ってるんはよっぽど精神的にきてる証拠やった。



「煙草もう吸わん言うてたのに」

『放っとけ』

「まぁそれは自由やしええけど。俺も一本貰てもええです?」

『お前も止めてなかったんか』

「んー、どうでしょうね」



独特の薫りが漂った瞬間、ソレを合図に俺は話を始めた。



「あの女に何言われたんです?」

『……やっぱり財前にはバレてしまうんやな』

「普通誰でも分かるわあんなん」

『……、せやな…』



サラサラ、と灰が落とされると部長は今日有った事を一通り俺に話してくれた。

あの女の脅しと変わらへん行為に虫酸が走るけど。それでも俺は部長に腹立った。



「…それがなんやねん」

『は?お前人の話聞いてたんか?』

「せやから何や言うてんねん!!」



出会い系サイト?
それがどないしたんや!もっと酷い話か思たけどそないなもんどうにでもなるんちゃうんか!



「名前が危ない?せやったらアンタが全力で守ったらええ!携帯やって変えたらええ、家やって引っ越すなり此処に住んだらええ話や!!」

『財、前』

「それでも力不足な時は俺やって謙也先輩やって居てるやんか……」



名前も部長も、そない俺は頼りない…?
俺はアンタの連れとちゃうん?



『………』

「そんな事で、アイツ泣かすな……」



アンタやから、俺は……

未練がましく想ってる今も、もし部長やなかったら諦めてへんかったんや。



『……悪い…』

「…………」

『お前の言う、通りや…堪忍……』



俺が此処に来て2本目の煙草に火が点いた時、部長は一粒零した。



『俺、阿呆やな…ホンマ何で……そんな簡単な事気付、かへん、かったんかな……』

「…………」

『ごめん、初めからもっとお前に話すべきやったな……』



それから、火が点いた煙草は一口も吸われる事無く灰色に染まっていった。

ソレを見ながら俺は、聖書と呼ばれる男の弱さを知ったような気がしてた。
完璧と言われるからこそ人には見せられへんかった顔、自分しか頼ったらアカンかったこの人がホンマはガラスみたいに脆く弱いんやと……



「今度、こないな事あったら本気でアイツ貰うで」

『、二度と離さへんわ』



その言葉を言う部長は何時もと同じ、自信に満ちた顔やった。
それでこそ、アンタらしいと思う。



「せやけど、このまま勝手な事させるんは気が引けるわ」

『……何かええ考えあるんか?』

「……部長もホンマ阿呆ですね」

『うるさいって』

「そういう時はこう言うやないですか」



目には目を、歯には歯を、って。

黙ってやられるなんか性に合わへんねん。





  □





「ほな俺、帰りますわ」



それからしばらくして、俺は部長の部屋を出ようと靴を履いた。



『財前!』

「、」

『お前にこないな事言いたないけど…』

「…何ですか?」

『……、お前が居って良かった。有難う』

「――――……」



なんや、それ……

そないクソ恥ずかしい台詞よお言えるわ。阿呆ちゃうん。



「……ンタは……やから」

『え?何?』

「何でもないわ!さいなら!」



俺何言うてんねん!

“アンタは俺の目標やから”

どっちが阿呆やねん……!!



自分の恥ずかしさに走って気を紛らわせると、ふと鳴りだす携帯。

携帯を開けるとメール受信の文字で、そのメールは名前からやった。



「……………」



“今日は有難う。生まれ変わったらアタシは光を好きになると思う”



「…っっ、あほ……」



そのメールを保護してしまう俺は阿呆ちゃうんか?
絶対阿呆や。



「こんなもん送ってくんな……」



これだけで眼が熱くなるくらいアイツが好きで好きで仕方ない。

ホンマは何処かで願ってた。
このまま部長と別れて俺を選んでくれたらって。あのまま抱き締めて自分のモノにしたいって。そんな事思てた汚い、男。


せやけど、それやのにアイツ等の為に動いてしまった自分はホンマに阿呆の中の阿呆や。



「ホンマ、損な役やな……」



月に照らされて映し出されたその道程は、滲んでしもてキラキラ光ってた―――………






(sequel.6 END)



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