violet shaking | ナノ


 


 mission.09



もう一度伝えたい言葉はただひとつ

君が好き





mission.9 最終ステージ





「8時半……」



名前と付き合う約束も今日で最後。

呼び出した俺は緊張して朝の早よから目が覚めてしもた。
学校に着いたんは8時半、約束の時間まで後30分。

待ち合わせ場所は、1週間前告白した中庭。
適度に芝生が生えたそこに座ると、あの日の事が頭を過った。



告白した時、あの時は見てるだけなんが嫌になって言おうと思ったんや。

結果はどっちになろうとも俺自身前に進みたくて。
せやのにアイツ、人が真剣に言うてんのに第一声が“えー”やで。
今思たら笑えるわ。

何処に告白の返事で“えー”言う奴が居てんねん。ホンマあり得へん女。
せやけど、そういう誰にも似つかへんとこが惹かれる要素やったんやと思う。

意地になって1週間で落とす、なんか言うてしもたけど…あん時はそれなりに自信あった。でも今は…



「嫌われてしもたんやろからなぁ……」



自信なんか全然無い。
1週間で俺を見せて、アイツを知るつもりやったのに結局は全然理解出来ひんかった。



「うわ、震えてるわ」



少し緩んでしもた包帯を直そうと右手を持ってくと手が震えてる。
1週間前より、全然緊張してる。怖い、その感情が勝ってるから。

こないな事で震えるとか情けないけど、それ以上にアイツを失いたないねん……



ガサッ、

その時、後ろから草が動く音がした。



「名前…」

『……………』



もしかしたら来てもらえへんかと思ってた。話も聞いてもらえんかもしれんって。

約束の時間より5分早く来てくれた名前。1日ぶりに見るアイツはいつもの勢いなんや無くて、俺を見んと俯いてたんや……



「来てくれて、有難う」

『最後、だから……』



最後。

その一言で俺の2回目の告白は終わったようなもんやった。
今日で最後にしたい、そう言ってんのと同じ……

俺を見てくれんのはそういう意味も込められてんねんか……



「さ、最後やな…」

『…………』



訂正して。その意味を込めて俺も繰り返すけど何も言うてくれん。

名前の気持ちは分かった。でも、悪あがきに聞こえるかもしれんけどもう1回言わせて。



「1週間、俺に付き合うてくれて有難う。楽しかった」

『………』

「俺、名前の事好きんなって良かったって思てる、から…」



謙也に比べたらそれらしい付き合いなんかしてへん。
財前に比べたら甘い事なんや無かったかもしれん。

それでも、俺は名前が名前で良かったって思てるから…



『……なんだ……』

「え?」



俯いて小声で話す名前に首を傾げた。



『やっぱり、過去形なんだね』



……過去形?
何が過去形なん…?言うてる主旨が見えへんねんけど……



『蔵は、アタシの事過去形にしたいんでしょ?』

「……は?」

『いいの、分かってたから』



俺は今でもこない好きやのに何で過去形にしたいとか…
何、言うてるん…?



『最後くらい、アタシも本当の事言う』

「………」

『2日前、蔵は2年生の子に告白されてたよね。アタシ、覗くつもりなんかなかったけど部活、見ててようって思って、』



って事はあの場に名前が居ったんか…?

それに部活見てよう、って…



『だから聞いちゃった…噂でアタシの事が流れてること、最低だって…』

「っ、そんなん、」

『いいの、他に何て言われても実際蔵に酷い事言ってきたわけだし』



ここでやっと、名前は俺と目を合わせてくれて。せやけど目が合った瞬間、肩が跳ねて直ぐ俯いてしもた。
アイツが、今じゃ小さい女の子に見える。



『仕方ない事だけど、でも…』



蔵にそう思われてるのは凄くショックだった

そう言うた名前は肩が竦んでて、今にも壊れてしまいそうやった。



『だから、嫌われたくないから、アタシ……』



それで俺を避けてたん?俺が嫌いになったからやなくて?
阿呆やな…なんで俺がお前嫌ったりするんや。

こんな事言われるなんや思わへんかったわ…なぁ、これって俺が好きや言うてるもんやで?



「名前、俺ん事好きなん?」

『!』

「言うて」

『……、多分…』

「多分ってなんや…ちゃんと言うてほしいねん」

『す、好……き…』



一生のうち、コイツがこない素直になる事なんや指で数えるくらいやと思う。

そんな貴重な事してくれる名前が愛しくて、腕が勝手に動いてた。



『!?、蔵、なん、で…』

「俺やって好きや」



抱き締められる事に動揺してんのがまた面白いくらい可愛い。

抱き締めたまま俺は言う。



「あんなぁ、どうせ盗み聞きするなら最後まで聞けっちゅーねん」

『……え?』

「最低、って言うたとこまでしか聞いてへんのやろ?」

『う、うん…』

「あの後、“俺はそう思わへん。飾らんとこが好きや”って言うたんやで」

『う、そ……』

「ホンマや。なんやったら謙也に聞いてみ」



ソレを聞いた瞬間、不意に揺れる肩。



「…泣いてんの?」

『泣いてない!黙ってよ!』

「え、」



急にいつもの調子に戻ってしもた……

え、なんで?さっきまでのしおらしいお前は何処行ってしもたんや…!



『ムカつく…』

「な、何で俺ムカつかれてんねん!」

『違う!勘違いしてた自分に腹立っての!』

「そ、そうですか…」



つまり感動して肩震わせて泣いたとかやなくて腹立って肩震わせてたんかー…

まぁ、名前らしいけど…



「それは置いといて、もう1回、言うてええ?」

『駄目』

「はっ!?」



ちゃんと付き合いたいから告白したい言うてんねんのに何で駄目なんや!
はー、なんですか、お前は俺が好きでも付き合えへん言いたいんか?え、どうなんや、好き同士なら付き合うんが自然の摂理ってもんちゃうんかー!



『また変な顔してる』

「、放っといて」



誰のせいや!
付き合うてくれたらええやん!
まだ俺に頑張れ言いたいん?さっきめっちゃ期待したのにそんなお預け要らんて……



『アタシが、言う』

「……ん?」

『ん、じゃない!アタシに言わせてって言ってんのよ!』

「い、言わせてって、」



まさか告白を?
名前から?
それこそ嘘やん……

そんな俺の考えを打ち壊すのは一瞬で、



『蔵、アタシと……付き合って、よ…』

「……喜んで、」



まさかの告白が嬉しくて仕方ない。のに。



「せやけど“付き合ってよ”って……クククッ、ホンマ面白いんやけど……クックッ」



普通、付き合って下さい。とか、付き合って欲しい。くらいで控えめに言わへん?

付き合ってよ、ってどんだけ上から目線やねん!
ホンマウケる……!



『うるさいうるさい!もういい、取り消し!』

「ククッ、え?」

『そんな笑うと思わなかった、そんな人とは付き合わない!』

「や、ちょ、ちょお待って、」

『ハッ、シラけた!帰る!』

「やや、待ってって!嘘やって!悪かった、俺が悪かったから!」

『何か後ろで毛虫がうっさいな』

「毛虫…!?ソレ酷いやろ!謝ってるやん!な、許して?可愛いでー名前!めっちゃ可愛いから!」

『……………』



名前!

歩いてくアイツの肩を掴んでこっちに向かせると、可愛いの言葉に反応してめちゃくちゃ真っ赤になって眉間にシワ寄せてた。



「阿呆、その顔反則や…」



そんな愛しい彼女に初めてのキスを贈ろう。


その後聞いたアイツのメールアドレスは至ってシンプルなもんやった。

k.s@xxx.ne.jp


俺って愛されてたんやなぁって。




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