shalala... | ナノ


 


 01



『名前ー!ドリンクとタオル頼むわー』

『はーい!』



手渡されたタオルとドリンクに顔の筋肉がだらしなく緩むのは隣でエールを送ってくれる彼女が居るお陰や。

地区大会、関西大会を無事に勝ち越した俺等が向かうのは全国大会。
それまでに力付けて全国制覇をモノする。その為に毎日毎日キツイ練習やって耐えてんねん。
勝ちたい、負けたくない、その気持ちは当然ながら持ち合わせてるけどホンマは…



『美味いわー』

『やっぱり名前が作るスポドリが1番やな』

『ただ混ぜるだけなのに大袈裟だよ』

「大袈裟やあらへんよ」

『蔵、』

「名前が作るから美味いんや、コイツ等が作ったって同じ味でも美味いと思わんわ」

『アハハ、何それー』



名前、
彼女に優勝を捧げたいから。

洗濯やったりスコアやったり、今は慣れたかもしれへんけどテニスの『テ』の字も知らんかった彼女が一から全てを覚えて尽くしてくれる。名前が居てくれるからこそ練習に集中する事が出来て、名前が応援してくれるからこそ「頑張ろう」て思えるんや。


名前に出逢えた事が偶然やとしても確率的な必然を感じてる。
彼女は、俺にとって無二無三な愛しい人なんです。





  □





「名前、部日誌書けた?」



日が沈んで月が顔を出せばオサムちゃんから『お開き』の声。それに反応して手早く片付けをするなり、名前が居る部室のドアを静かに開けた。



『ごめん、まだ。蔵は先に帰ってていいよ?』



握ってたペンを休めて振り返ると申し訳無さそうにも流麗な顔。
それに心臓は逐一反応するけどな、俺等の為に身体動かしてくれてるのに帰るなんや宜に出来る訳無いやろ?



「何言うてるん。遅なった時は送るって言うたやろ」

『大丈夫なのに』

「女の子は甘えとくもんやで?」

『……有難う』



彼女が優婉にはにかむもんやから、俺もつられて口角が上がったのが分かった。


名前をマネージャーに誘った時、必ずしも遅くなる日は送ると約束した。彼女は“部長”としての責任としか思ってないかもしれへんけど、そんなのは建前で名前と一緒に過ごせる時間を誰にも譲りたくなかったんや。限られた時間を俺のモノにしたかった、それだけやねん。





「あんな、話あんねん」

『うん?どしたの改まって』



窓から入る月明かりに並ぶ影は2つ。
それを見ながら時間が止まれば良いのに、切に思う。黒い影なら少し寄り添えばひとつになる事も容易やのに。
他愛無い世間話を重ねる中で募り募った心を一切合切ぶちまけたくなった。



「……俺、」

『うん?』

「っ、俺と付き合うてくれへん、かな…」

『……え?』

「ホンマは一目惚れやってん…初めて名前に声かけた時から」



俯いて顔を隠してた彼女が気になってた。
右も左も分からへん土地に来て憂愁なんは分かる。せやけどな…この子が上向いて笑ったら絶対可愛いて、そう思てたんや。


“俺ん事、蔵って呼んでくれへん?”


せやから近付いた。君の笑う顔が欲しくて。



『……………』

「名前、」

『……………』

「駄目なら、駄目って言うてくれたんでええんやで…?」

『え、いや、違うの!』

「違う?」

『………夢、じゃないかと思って…ずっとアタシの片想いだと思って、たから…』



眼開けたまま気失ってるんちゃうかって思うくらい固まってた名前は俺へ歓喜な言葉をくれる。

夢、なぁ…俺に片想いしてくれてるって事の方がよっぽど夢幻なんやけど?



「名前、夢なんかやないで?俺が名前のこと好きなん、現実やもん」

『く、ら…』

「せやからちゃんと返事、ちょうだい?」

『、アタシも蔵が、好き…』



“片想い”より欲しかったのは“好き”


良く出来ました。

溢れた想いを形にしたくて名前の額に口唇を落とせば瞠若して真っ赤になる頬。
うん。めっちゃ好き。



『く、蔵……!』

「ククッ、めっちゃ真っ赤なってるで?」

『だってあんな、』

「別にええやん。ほな帰ろう?」

『う、うん…』



名前が言う夢物語みたいな格好良い男とは程遠いかもしれんけど。
それでも俺はこの現実が幸せで、これからもずっと君を愛していくって約束する。



『あれ、』



そんな中、部室の鍵を持つと拍子抜けする様な声を出されて。



「どないしたん?」

『アタシ鞄どこに置いたっけ…』

「鞄?今日部室掃除するー言うて皆の分もまとめてロッカーの上置いたやん」

『あっ、そっか!そういえばそうだった』

「ボケるんはまだ早いでー?」

『アハハ、ボケてなんかないよー』



そんな天然なとこも可愛いなぁなんて悠長に笑ってた俺は。

“ボケるんは早い”その言葉が笑えへんなるなんや想像図、そんなもんは何処にも無かったんや…
ただ、やっと掴んだ幸せに舞い上がって隣の体温を愛しく思うだけやった。




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