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 05-2



『白石君、』

「あ…どうも、」



アイツの身体が白い塊となったのを見てた後、葬式から帰ろうとした時、名前のお母さんに呼び止められた。

目は真っ赤に腫れてて、いずれこうなると医者に言われて分かっててもやっぱり覚悟なんて出来んもんなんや。



『今まで、あの子に良くしてくれて有難う』

「俺は何も、」

『全国大会、連れていってくれて名前もきっと喜んでる』



これを貴方に渡したくて、そう言って差し出された手帳。

名前にノートを渡した時のことを思い出す。あれはつい最近のことやったのに遥か昔のような感覚で。



「なんですか、これ…」

『読めば、分かると思う』

「そうですか…」

『白石君には言わなかったけどお医者さまから全国大会2日前の日までしかもたないだろうって、言われてたのよ…』

「え……?」



お母さんから発っせられた言葉に耳を疑った。
そんな、2日前って…



『きっとあの子、全国大会までは生きようって頑張ってたんだと思うの。だから有難う』

「………………」



全国大会までは生きようって…

俺等と一緒に試合する為に…?
名前は何も出来ひんのに必死で、生きてくれたん……?



「頑張り、すぎやねん……」



嬉しいわ、阿呆。
呟きながら手帳を開ける。

それは、名前の日記やった。



〇月〇日

今日から日記を書こうと思う。
アルツハイマーだって言われたから。今まで感じたものを忘れるなんて嫌。だから明日のアタシへ今のアタシを伝えるんだ。


〇月〇日

今日は、落ち込んでたアタシを蔵が叱ってくれた。
仲間だって言ってくれたこと、凄く嬉しい。仕事だって、忘れてもいい、もう1回覚えたらいいって励ましてくれて勇気を貰った。
蔵が居てくれて本当に良かった。有難う。

〇月〇日

帰り道が分からなくて黙り込むアタシに、迷子にならんやろって手を握ってくれた蔵。
忘れたんだ、そんな言い方をしない彼の優しさに感謝してる。蔵を好きになった事は間違いなんかじゃなかったんだ。

〇月〇日

蔵が泣いた。
アタシの前で笑顔を見せてくれていたけど本当は蔵の方がツライんだ。蔵の名前が分からなくなったせいで傷つけてしまったことが何より悔しい。ごめんなさい。
だけど本当に貴方が好き。



「名前……」



その日記には、毎日毎日俺の名前があって。
“有難う”“ごめんね”繰り返し書かれていた。

名前の、精一杯の懺悔…



「…俺の方こそ、ごめんな………あ、」



大きな風が吹いて日記帳がパラパラ捲れると、封筒が落ちてきて。
拾いあげると、“蔵へ”と宛名が書かれてあった。



「、手紙?」



中から便箋を取り出すと、ふんわり名前がいつも付けていた香水の薫りが広がった。

懐かしい、アイツの薫り…


白石蔵ノ介様

手紙を書くのは初めてだね。
なんか照れ臭いな。だけど、不器用なアタシだから言葉にすることは出来ないと思って手紙に残します。

蔵がこれを読む頃、きっとアタシは何も分からない状態なんだろうと思う。
先に謝ります。ごめんね、忘れてしまって。
蔵はどんな気持ちでこれを読んでるのかな。出来ることなら穏やかな気持ちで居てほしい。

初めて蔵を見た時、なんて綺麗な人だろうと思った。蔵が声をかけてくれたことがきっかけで貴方を好きになったと思っていたけれど本当はアタシこそ一目惚れだったのかもしれない。

貴方を好きになってからは毎日が夢のようだった。
笑顔を見るだけで元気になれて心が温かかったんだよ。
マネージャーになってから、皆は凄く頑張ってるのにアタシは見てるだけしか出来なくて、そんな自分が歯痒くてもどかしかった。
だけど蔵が居てくれるだけで頑張れるんだって言ってくれたことで、アタシがどれだけ救われたことか…

本当に蔵には感謝してる。
病気になってからだって、見放さないで支えてくれた。本当なら手に負えないって放っておくだろうに、大丈夫だよって励ましてくれて。
蔵が居なかったら、きっと病名を聞いた瞬間からアタシの人生は終わってた。本当に有難う。この気持ちは伝えても伝えきれないよ。

いつかアタシは早かれ遅かれ死んじゃうんだと思う。
蔵は怒るのかな…
だけど幸せだった。貴方を好きになって、貴方から愛されて。
悔いはないの。
ただ、蔵には幸せになってもらいたい。
逝ってしまったとしてもアタシは見守ってる。ずっと蔵を愛してるから。だから蔵は蔵の幸せを手に入れてね。

追記。
全国大会優勝を見るまでは意地でも生きる!優勝しようね。


名前






つらつらと書かれた綺麗な文字は零れ落ちるもののせいで滲んでいく。



「……こん、な…」



名前から貰う最初で最後のラブレターはこの世のものとは思えないほど輝いて見えた。

名前に何がしてあげられたんやろう。そう思っていた俺のモヤモヤを吹き飛ばしてくれて。
最後までアイツは俺を助けてくれたんや。

短すぎる名前の人生に精一杯尽くした。その想いがアイツに届いたと分かったこの時、俺は世界一幸せ者やった。



「名前、ホンマ有難う」



俺と出逢ってくれて有難う。

俺は今、めっちゃ幸せやで。
これからもずっとお前を愛しとる。





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