act.5 (1/1)
試合が終わって、アタシの方に駆け付けてくれた仁王君とブン太。
さっきまで熱かった顔が冷めてて安心。鏡見たわけじゃないけど、絶対絶対半端なく赤かった。そんな顔見せられるわけないじゃない。
でも、コートから近いフェンスにはたくさんの女の子達がいて、そんな中でアタシのことを気に掛けてくれた仁王君とブン太の優しさが凄く嬉しかった。
アタシにはまだ仁王君とブン太しか仲良いっていえる人がいないから。
いや、あの2人だって仲良しだなんて思ってるのはアタシだけかもしれないけど。
だけど友達、そう言ってくれたもん。
『しっかり見とけよー』
「了解しましたー」
オサムちゃんから集合って言われると、ブン太はそう言って仁王君とコートへ戻っていった。
スパルタは嫌だなんて言っておきながらその後の練習だって嬉しそうな顔つき。
テニス、好きなんだなーって伝わってきた。オサムちゃんだって皆の様子見る顔は柔らかくって、少し嫉妬しそうなぐらい、打ち込めるテニスが羨ましくて仕方なかった。
『ねぇ、』
「え?」
そんな中、後ろから声が聞こえてきて。
振り返ってみるとオサムちゃんと一緒に部を仕切ってた人が居た。
えーと、部長さん、かな。
『君、名前は?』
「あ、名字名前、です」
『仁王と丸井と仲良いみたいだね、ついでに監督…渡邊先生とも』
「いや別にそんな、」
『フフ』
「部長さん、ですか?」
『違うよ、君と同じ1年だもん』
「え!?嘘!」
1年生でそんな部活まとめるだなんて凄い、ってゆうかある意味非常識じゃ……
『俺は幸村精一、よろしくね』
「はぁ、宜しく、」
『君がマネージャーになってくれたら楽しそうだな部活も』
「ま、マネージャー!?」
な、何言いだすの!
突発的な発言を繰り返す幸村君にアタシの思考はついてけない。
遠回しにマネージャーになれって言ってない?
よく分からない彼の威圧感に圧倒されそうだ。
『うん、名字さんがマネージャーだったら仁王も丸井も頑張ってくれると思わない?監督だって』
「そんなまさか、」
『じゃぁ俺、そろそろ行かなきゃ。またね』
そう言って幸村君はコートへ何事もなかったかのように戻っていった。
その後すぐ、見知らぬ女の子に呼ばれたと同時に『さぁ誰が1番に気付くか見物だな』なんて彼が呟いてたことなんて知る善もなく。
『ちょっといい?』
「はぁ…」
同級生かも先輩かも分からない人達に連れられて人気のない校舎裏へ。
嫌な予感がする。
きっとこの勘は間違ってない。
だって尋常じゃないくらい睨まれてるもん。
「あの、何か用ですか?」
『…どんな関係?』
「え?」
『仁王君と丸井君と幸村君』
どんなって言われても。
「友達、だけど」
いや幸村君は友達とは言い難いな。
どうせ何言ったって気に入らないくせに。
『何よソレ、友達だったらあんなに馴々しくしてもいいの?』
やっぱり。
じゃぁどうしろってゆうの…
思わず溜息が零れた。
『溜息とかついて調子のってんの?』
「!………痛、」
『テニス部は皆のもの、アンタのものじゃないんだから!』
ドン、と勢いよく倒されて見事アタシは尻餅。
嫌だ、泣きそう。
別にこうやって罵しられてることがつらいんじゃなくて、上手く言い返すことが出来ない自分が嫌で嫌で。
皆とは、こんなふうに言われるような関係じゃない。
なのに。
『アハハ!分かってくれたー?』
「…………」
嫌だ嫌だ、泣いちゃうなんて嫌だ。
アタシの視界は段々滲んでいって。
『もうこれに懲りたら、』
『…懲りたら?』
急に聞こえてきたテノール。
滲んでる視界に見えたものは女の子達じゃない、さっきまで目に入ってたテニス部ジャージ。
『懲りたら、何じゃ?』
『に、仁王君!!?』
「…………」
『ハァ、この歳にもなって大勢が1人を』
『ち、違っ!アタシ達は別に…』
『名前、立てるか?』
さっと手を差し伸べてくれて、アタシは体を持ち上げた。
『お前さん達、こんなことしてそんな酷い顔してたら男なんて寄ってこんぜよ。お前さん達こそこれに懲りることじゃな』
『!!』
『……大丈夫か?』
仁王君の一言で女の子達は焦って逃げた。
アタシは、とゆうと。
せっかく起こしてくれた体なのにまたその場に崩れてしまった。
『名前、』
「こ、腰が抜けた…」
『ブッ!それも間抜けやのぅ』
クックックッ、って聞こえる笑い声に酷く安心しちゃって、さっきまで滲む程度で我慢してた涙がボロボロ溢れてきた。
泣きたくなんて、なかったのに。
『よしよし、怖かったなー』
「……なんかその扱い、嫌だ」
『泣き虫さんにはこれでちょうど良か』
「仁王君の意地悪、」
『痛いの痛いのとんでいけー』
「……………」
言い方、すっごく腹立つけど。
小さい子あやすみたいで嫌だけど。
でも強すぎない力で抱き締めながら背中をさすってくれるのが凄く心地よくて、ソレのせいで余計涙が止まんなくなった。
泣きたくなかった。でも、泣きたくなった。
それから10分だか20分だか分かんないけど、泣き続けた。
あー、仁王君、部活中なのにごめんなさい。いい迷惑だね本当。
「仁王君、ごめん。もう、大丈夫」
『あれだけ泣いたらスッキリ出来たかのぅ?』
「おかげさまで」
『あ』
「え?」
『交代、俺は部活戻るき保健室連れてってもらいんしゃい』
「保健室?」
仁王君は腕と足を指差した後、背中を向けて手を振った。
自分の腕と足を見てみると擦り傷。…気付かなかった。
擦り傷で少し血が滲む程度、大した怪我じゃないけれど気付いてみるとズキズキする。
痛い。
『名前!!』
「あ、ブン太?」
全力疾走といわんばかりにものすごい早さで遠くから駆け付けてきたのはブン太。
あー、交代ってこうゆうことか!
『アイツ等に言ってきてやったぜぃ!』
「え?何を?」
『弱いもの苛めすんなって』
「ブッ!」
何ソレ何ソレ!
弱いもの苛めって!
アタシは涙なんて忘れて笑いがでた。
『何で笑うんだよ』
「だって今時弱いもの苛めってどうなの!」
『普通じゃん。んなことより怪我してんじゃん、保健室行くぞ』
「はーい」
グイっと手をひかれて保健室へ。
仁王君もブン太も心配しすぎなんだから。
…嘘、嬉しい。
心配してくれてありがとう、駆け付けてくれてありがとう。
2人の優しさが染みたから。
『先生ー怪我人怪我人ー!って居ねーじゃん』
「みたいね」
ブン太が勢い良く保健室のドアを開けてもガラーンとしてて、“用の方は職員室まで”とゆう字がホワイトボードに書かれていた。
『職員室まで行くのは面倒だし俺がやってやる、感謝しろよぃ』
「ブン太出来るの?」
『伊達にマネージャー無しで運動部やってねーつうの』
「そうだねお願いします」
そう言ったブン太は本当に手際よく消毒してくれてガーゼをテープで貼ってくれた。
普段お菓子食べてる姿とは大違いで見なおした。
『ほい、終わりー』
「ありがとう!」
『…部活、あと1時間くらいで終わるし、ここで待ってろよ』
「あ、うん」
『送ってやる』
「本当に?ビップ待遇ー!」
『今日だけな』
「はいはい分かってますー」
1時間、ボーっとしておくのもアレだし、ベッド借りようとするとブン太がドアの前で一言。
『嘘。』
「は?」
『今日だけじゃなくていつでも送ってやるよ』
そう言って走って行った。
「プッ!アハハ!」
本当、良い奴。
ブン太と仁王君のおかげで、今日の事も善い思い出になりそう。そう思って眠りに入った。
□
『名前』
「ん…」
ふと、頭に暖かい感触。
オサムちゃんが撫でてくれた時と同じ温もり。気持ち、いい。
きっと夢だ。オサムちゃんが頭撫でてくれる夢。
「オサム、ちゃん…好き」
夢の中、アタシはオサムちゃんに好きだと告げた。
(200806/移動20120211)
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