act.4 (3/3)
名前と、ずっと喋っときたい。
そうは思ても立場上無理な話であって、軽く会話した後テニスコートへ入った。
ドカッとベンチに座ってタバコに火を点けると、“神の子”と呼ばれた奴が近寄ってきて。
『渡邊先生今日から宜しくお願いします、』
「おー、幸村か」
『名前、覚えて頂けて光栄です』
「忘れたくても忘れれんわ、金太郎が世話になったしな」
あー、彼ですか。そう思い出した表情を浮かべる幸村の顔は、
“そういえば、そんな奴もおったな”
そんなどうでもよさそうな感じに思えた。
『……監督、コートでの喫煙は程々にしてくださいね』
ニッコリ、笑顔を向けられた俺は背筋が凍るほど悪寒がして。
食えん奴や、幸村。
「…………」
幸村がコートに戻ってから感じる視線。
今度は凍るような視線やない。
暖かい、寧ろ熱い視線。
こんなん、アイツしかおらんやないか。
「お前の視線、痛いっちゅーねん」
『え!?』
振り返って、少し離れたところにおる名前に声をかけると、あたふたしながら顔を真っ赤にさせた。
すぐ横にある桜みたいにほんのりピンクなんてもんやない、真っ赤っかや。
なぁ名前、その顔って…
『べ、別にオサムちゃん見てたわけじゃ、』
「名前、あっちで仁王の試合始まるで?」
『え、本当?見る見る!』
「おー、アイツは上手いで」
真っ赤にさせたその顔、その意味は。
あんな、俺。
勘は鈍ないほうやねん。伊達に歳食ってないし。
本当はもっとからかってやろ思ったけど、ソレに気付いた俺は名前の“赤”が感染しそうで自分を押さえるのに必死やって話題を変えた。
仁王なんか、見せたなかったけど。
あー……ホンマ参った。
この時には、幸村に言われた言葉なんかすっかり頭から抜けてて。帽子を深く被り直した後タバコをふかした。
(200806/移動20120211)
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