act.3 (1/5)
「おはようさん」
『え、あ、仁王君おはよー』
学校へ着くなり目に入ったのは名前。
周りを見渡してもブン太はおらん。
朝一番に会えたことがちょっと優越感、そんな風に思うなんて俺もまだまだガキかもしれん。
『あ、昨日頼まれたノート、ちゃんと持ってきたよ』
「さすがじゃな、悪いけど今日1日借りるぜよ」
『はい、ドーゾ。あんま字綺麗じゃないからごめんだけど』
「ほー、どれどれ」
渡されたノートを早速パラパラ開くと、綺麗とまではいかなくとも丁寧な字が並んでた。
『よ、読めなくはないでしょ?』
俺を不安げに見ながら問う名前を見ると、からかいたい気持ちがこみあげてきて、
「…まぁ、読めんことはない」
『なっ!そこはお世辞でも綺麗、って言うとこでしょー!?』
「正直に答えたのにそんな怒らんでも」
そう言ったけど、嘘はついとらん。
ぷーっと膨れっ面で抗議してくる姿が、あんまりにも俺の予想通りの反応で面白かった。
単純な女じゃ。
まぁそこが可愛いとこなんじゃが。
『本当失礼しちゃう』
「ククッ、そう怒りなさんな」
『だってー!』
「名前、」
『――!』
「コレやるから」
『あ、有難う…』
渡したのはイチゴ味の飴玉。
包みを開けてソレを名前の口に放り込んでやると、甘ーい、と顔を綻ばせた。
でも、一瞬見せた表情を俺は見逃したりはせんよ。
「飴で機嫌直るとかブン太並みじゃな」
『ソレ、どうゆう意味?』
「ブン太と同じ、お菓子大好き思考」
『い、いっつもお菓子で釣られる訳じゃないんだからね!』
「ハイハイ、」
“名前”
俺がそう呼んだだけで反応した。
少なからず、意識しちょるって証拠じゃなか?
近付きたいと思って呼んだ名前。
その考えは正解じゃった。
(200806/移動20120211)
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