act.3 (2/5)
お、前方10メートルに名前発見。
よく見ると仁王にノートを渡してて。
あー、アイツ昨日昼からサボってたもんな。ソレだ。
オーイ!
2人にそう声を掛けようとした瞬間、
「……………」
声にならなかった。
俺の目に写ったのは、普通以上に仲良くしてる2人。
話してる内容までは分かんなかったけど、
何か名前がすねてて、
何かソレを見てる仁王の表情が柔らかくて、
仁王が名前に飴を食べさせて、名前はニッコリ笑った。
俺には“好き同士”の雰囲気にしか見えなかった。
朝から、超ブルー。
『ブン太おはよう!』
「…あぁ、」
『……元気、無い?』
「別に」
あの後、教室へ行って名前から挨拶されても、さっきの光景が頭ん中でグルグルして。
どんな顔してどんな事喋っていいか分かんなくなった。
名前は心配そうに俺を見るけど、俺にはそれがまた嫌な気分になって。
あー、八つ当たりとか、最低じゃん。
『ブン太ー、』
「ん?」
『よっ!っと、』
「っ痛!」
自己嫌悪に陥ってる授業中。
横から名前が俺を呼ぶから、とりあえず返事はしたもののコツンと頭に何か当たった。
何すんだよ!って言おうと思ったら名前がゴメンのポーズしてて。
その顔見たら怒る、なんて出来るわけないだろぃ。
その頭に当たった何かを拾ってみると、ノートの切れ端だった。
ブン太へ
何があったのかアタシには分からないけど、ブン太には笑顔が1番だと思います。
昨日、ブン太がアタシの変な質問に笑わず答えてくれたこと、すごく嬉しかったから。今度はアタシが力になれたらいいなって。
アタシじゃ役不足かもしれないけど(笑)
話したくなったらいつでも聞くから早く元気になってね。
名前
「………………」
無造作に破られたノートの切れ端にはそう書かれてた。
何かすっげー目頭が熱くなって、顔上げられなかった。
今名前の顔見たら絶対零れちまう。何時も退屈で大っ嫌いな授業だけど、今だけは授業中で心底助かった。
『はい、じゃぁ授業終わります』
暫くして授業終わりのチャイムが教室に鳴り響いて先生が教室を後にする。
俺は漸く治まった目頭を擦って、名前の頭を軽く小頭いた。
『あ、ブン太…』
余計なことしたかなって不安そうな顔をしてる名前を見ると思わずブッ!っと吹き出してしまった。
「馬ー鹿」
『……っつ、ブン、』
「何もねぇのに気ぃ使ってんじゃねぇよ!眠かっただけなのにあんなのビックリするだろぃ?」
『…………プッ、アハハッ!』
「クックッ!馬鹿名前ー」
『馬鹿じゃないもーん!』
ゴメン、悪かった。
そう何度も心の中で謝って。
俺の嘘は分かってるはずなのに何も聞かない名前に感謝して。
仁王が名前のこと好きなのは多分当たりだと思う。
名前もそうかもしんない。
でも、それでもやっぱり俺も名前が好き。
まだ、始まったばかりのこの恋を簡単に手放したくない。
ふと、目に着いた名前の筆箱の中にある俺の消しゴム。
アイツがくれた手紙をポケットにしまって、頑張るって誓った。
(200806/移動20120211)
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