01.
それは桜色の花弁が舞う季節の事やった。ひらひらと風に揺れる幾つもの花弁は彼女の為に枝から落ちる事を望んだんやないかと錯覚してしまった。
それくらい、俺は彼女に眼を奪われたんや。
口に出せば自慢やらナルシストやら周りからの文句は絶えへんけど、正直、大学2年になった今もこれまでも俺は女の子にちやほやされる事が多くて。せやから余計、一目惚れなんて野暮な事せえへんって誓ってたんや。
上っ面だけの情愛なんや嬉しいのは始めだけ。容姿やって必要な事かもしれへんけど、ちゃんと中身を見て、そのままの自分が好きやって想ってくれる事が一番やから。
だから、俺だってそうでありたいって思ってたのに。
『あ、居った居った、白石ー!この後何も無いなら一緒に食堂行かへ……、ってまた見てたんかい』
「あー謙也か…」
『……声で分かるとは思うけど一応振り返るくらいしたらどうや』
「今めっっっっっちゃ忙しいねん」
『はいはい…せやけど白石がこんななるとは想像してへんかったから意外やで』
「こんなって?」
本来は立ち入り禁止である屋上から真っ白な日傘とその影を眺めて、建物の中へと消えて行けば漸く謙也の方に身体を向けた。
『今まで散々女の子からモテてたやろ、せやのに惜し気も無く見向きもせえへんかった男が…っちゅう意味や』
「俺は謙也みたいに誰でもオッケー尻軽男ちゃうからな、純情一途やねん」
『誰が尻軽や!!俺やって十分、純情で一途やわ!』
「名前ちゃん、もう暫く出て来おへんかなゼミあるんやろうし」
『聞けや人の話し…!』
何やギャンギャン吠えとる謙也はええとして…
俺と彼女は学科も違うし何の接点も無い。こうして時間が空いた時に構内を見渡せる屋上から1日1回彼女を見付けられたらラッキーな程度や。辛うじて名前だけは知る事は出来たけど後の事は何も知らへん。
遠くから見つめる、今の俺にはそれしか無くて、せやけどそれだけで満足してる気もしてた。
『っちゅうかそない好きなら告白したらええやん!友達なったらええやん!白石にしては消極的でまどろっこしいで?人にヘタレや言うくせに結局自分もやん』
「うーん。何て言うたらええんやろ」
『は?』
「ぶっちゃけ知り合うて友達にでもなれば堕とす自信あんねん」
『……は?』
「せやけどなぁ…あの儚さを俺が壊してしまうかと思うと気が引けるっちゅうか」
『…………は?』
「やって毎日真っ白な日傘差して歩いてんねんで?肌も真っ白で弱いんやろうし心やって純白やろ?あんな健気で可愛い子、今どき居らへんし、そんな女の子に触れたら罰が当たりそうやと思わへん?その白さを俺色に染めてやりたいっちゅう欲望が無いとは言えへんけど」
『…いや、そもそもお前の発言に神様が怒っとる気がするわ……』
「何で?俺間違った事言うた?」
『………………』
もう十分に分かったからとりあえず飯や
そんな適当な謙也を見るとこれやから彼女出来ひんねんって思ってしまうけど、今日も彼女を見れた訳やし、この愛しさを抱えたままお昼にするのも悪くないなって屋上を後にした。
胃が満たされた後、あんな事が起きるなんや知る筈もなく。
(20111102)
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