長編 | ナノ


 


 13.




「原田さん!これ美味しい!」

『そりゃ連れて来た甲斐があったってもんだ』



あれからこっそりと屯所を抜け出したアタシと原田さんは適当に町をぶらつきながら1件の甘味処でお茶をしてた。今みたくケーキやパフェなんてものは当然無いけど、渋めのお茶に団子。これだって十分過ぎるくらい美味しい。日本人で良かったって思う瞬間だよね、こんな風に和を感じる時って。
原田さんが誘ってくれて本当に良かったな、話しも止まらないし。



『そういや聞きたい事があったんだが』

「うん?なになに?」

『今朝斎藤がお前の部屋に行かなかったか?』

「…………………キマシタヨ」

『何で片言になってんだよ、何かあったのか?』



机に肘を付いて足を組む、それだけで色気が凄まじい原田さんに照れない様にだけ気を付けて、今朝あった嫌なやり取り一部始終を話した。するとクックッ、喉で笑う声が聞こえて途端に爆笑へと早変わり。や、そんな笑う事じゃないと思うんですけど…?



『ハッハッハッ!斎藤は本当口下手だよなぁ?』

「えー…口下手っていうか何か違うくない?」

『斎藤は名前が心配だっただけなんだよ、化粧してる最中の姿なんざ見慣れないものだしよ』

「そりゃ言ってる事は分かるけど…特にこの時代だしお化粧の道具もやり方も全部が違うとは思ってるし」

『まあな、いつの時代でも女には女の都合っつーもんがあるわな』

「そうそう!だからって醜い、ってのは酷過ぎると思うんだよねアタシは!」

『そりゃ言葉の綾だろー?』



思い出し笑いならぬ、思い出し怒りに堪らずパクリと一粒団子を口の中へ放り込むアタシを見て、不意に原田さんは表情を変える。



『ま、名前が斎藤を毛嫌いするってのなら俺としちゃ都合が良いけどよ』

「え?」

『敵が1人でも減れば道は楽になるだろ?』



それってどういう…
意味は分かり兼ねるけど、さっきまで大笑いしてたくせにそんな柔らかく微笑むのは止めて…!コロッと惚れちゃいそうで眼に毒!毒ったら毒!
例の奥さん8人話しはともかくやっぱ女慣れしてるよね、この人だけは…!ツボを心得てる間違いなく。



『この後はどうするんだ?』

「、どうするんだって言われても…アタシは行きたい場所も分からないくらいな状況だし…」

『だったら俺にとことん付き合ってみるか?』

「とことん?」

『団子を旨そうに食ってる姿見てると俺も食いたくなった、ってやつだな』

「…まさかだとは思うけど、それって団子以外ってこと…?」



普通だったら「じゃあ原田さんも団子食べたら良いじゃん」って返すとこだけど、この微妙な言い回しはそうじゃないって事だよね?あんまり考えたくはないけどつまり……



『察しの通り名前希望だわな』

「いやいやいや!そんな冗談面白くないから!」

『冗談って訳でもないぜ?此処が俺の部屋だったら既に布団の中だろうしな』

「えー……?」

『それか試してみるか?俺が冗談言ってるのかそうじゃないのか』



ちょっと待って待って!
何でそっちの話しになるのかなぁ!いつの時代も男は狼、本能のままに生きてるって事ですか?だけどアタシは違うんだよ。本能のままに生きて後でボロ雑巾かの如く捨てられるのは御免なんだから!
そういう事は順序ってものがある訳でね、全てスッ飛ばしてそこへ行くのは間違ってるんじゃないのかな原田さん!
そんな事を瞬時に脳内で巡らせてるといつの間にか原田さんの顔が曇ってた。あれ、何でかな…?



『…とまあ言いたいのは山々なんだがこのくらいにしとくか』

「あの、顔色悪い様に見えるんだけど…」



もしかして急に調子が悪くなったとか?思うより先に原田さんは甘味処の外を指差して一層青い肌を見せる。
外に何があるんだろって振り返ってみたけど………振り返るんじゃなかった。そこには壁に爪を立てて厭な音を出しながら笑ってる沖田さんが居たから。

(ひいぃっ!怖っ!!めちゃくちゃ怖い!!)
(総司…今にも誰か呪い殺しそうな眼すんの止めろって)
(あれ、左之さんに名前ちゃん奇遇だね)
(え、奇遇?こっち見てたのに奇遇?!)
(僕巡察中でね、ちょっと虫の居どころが悪かったから不逞浪士ぶっ飛ばしてきたんだ。ほら返り鼻血)
(…………)
(ところで何の話ししてたの?昨日僕と共に夜を明かした話し?)
(誤解生む様な言い方は止めて下さい)




(20101216)







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