長編 | ナノ


 


 09.




何でだか呆れ返ってた土方さんだけど、最終的には新選組がアタシを保護してくれるんだって言ってくれて。喉の突っ掛かり取れたっていうか、喉に刺さった骨が取れたっていうか、とにもかくにも安堵が溢れたアタシはスキップで平助君の部屋へ戻った。



「たっだいまー!」

『名前、土方さんとの話し終わったのか?』

「終わったよ!それでね、平助君に謝らなきゃいけない事があって…」

『へ?何だよそれ』



確か沖田さんが平助君と話しするって言ってた筈だったけど部屋には平助君しか居なくて。だったらちょうど良い、寝転んでる傍に座ってアタシは頭を下げた。



『な、何してんだよ、何で頭下げてんの!』

「アタシ、さっき酷い事言ったじゃん…?」

『酷い事?』

「平助君は羊の皮を被った妖怪だって…」

『いや、さっきは悪魔って言ってたけど…何となく妖怪のが嫌じゃね?』

「だからごめんね、アタシが間違ってた!三度目の正直だよ!アタシ本当に平助君を信じるから!」

『、本当に?』

「本当に!」



途端飛び起きて向き合ったかと思えば両手を掴まれる。



『俺も!俺だって名前の事信じてるぜ!』

「、」

『心配とか不安とか、これから困った事も増えるかもしんねぇけど何でも言ってくれよな!俺が力になる!』

「平助君が…?」

『当ったり前だろ!俺が名前の役に立ちたいんだから』

「本当?」

『男に二言はねえ!だから俺に何でも言ってくれよ?約束!』

「―――、うん!」



掴まれた手を、頷きながら絡めて力を込めると平助君からもきゅっと力が入れられた。そんなやり取りが嬉しくて、そんな風に言ってくれる事が幸せで、やっぱりアタシはラッキーなんだって思うと不意に平助君の顔が曇る。
な、なに?まさかラッキーじゃなくてアンラッキーだとか…?



『あのさ、俺も名前に謝んなきゃならねえ事があるんだけど…』

「、嘘?」

『…ほんと』

「な、なになに?何の事?」

『あのさ、』

『“勝手に名前ちゃんの鞄を漁って私物を見ちゃいました”って事だよね』

「あれ、沖田さん?」

『平助ってば無粋だよねぇ』

『な、何言ってんだよ!総司だって見たじゃん!っつーか元は総司が勝手に漁って俺を巻き込んだんだろ!』



お風呂に行ってましたと言わんばかりに髪から滴を落としながら現れたのは沖田さんで。やっぱり顔が良い男は水もしたたる……じゃなくて。
2人がアタシの鞄を漁ったと?女の子の鞄には秘密がいっぱいあるのに何て事してくれてんの!って言いたいところだけど。何だそんな事、っていう…さして秘密めいた物も入ってなけりゃ、皆が見たところで訳ワカメなモノばっかでしょ?だから怒る気にもなれないんですが何か。



『何言ってるの?見たものは見たんだから言い訳するなんてみっともないんじゃない?男としてどうなの?手なんか繋いじゃって女々しい事言うのって気持ち悪いんだけど?』

『………………ご、ごめん名前…』

「えー?それは別に気にしなくて良いけど」

『ほ、本当か!?』

「うん」

『良かったね平助、名前ちゃんの心が広くて』

『っつーかお前も謝れよ』

『それより、これ何なの名前ちゃん』

「え?」

『どういう事か説明してくれる?』



別にね、別に良いんだけど、平助君とは違って何の悪びれも躊躇いも無くアタシの鞄をアタシの目の前で漁って何かを突き付けて来た沖田さんは眼の色を変えてアタシに説明を求めて来る。
沖田さんの手にあるのはあまり需要度が無く写真・プリクラ帳と化した手帳だった。女の子の友達から男友達、そして元彼に至っての沢山の写真が貼られたソレを前に、何でだか浮気を突き止められた気分で、さながら沖田さんは彼氏か彼氏気取りの人当たり………。



「…それが何か」

『何か、じゃないでしょ。僕というものがありながら不細工相手にしてるってどういう事?』

「ええ!?不細工!一応アタシ付き合う人はイケメン前提なんだけど!」

『何言ってるの?そこは大事じゃないから。重点要素は僕というものがありながら、ってとこでしょう?』

「ううんそんな事はどうだって良いよ。元彼に未練は無いけどアタシの好みにケチ付けるのは許せない…だったら沖田さんも平助君も不細工って事になるんだよばーか!」

『僕の何処が不細工だって?平助はともかく』

『俺は不細工だって言いたいのかよ…』

「平助君は格好可愛いんです!ね、この人不細工じゃないよね平助君?」

『や、その…』

『はっきり言ってあげなよ平助。髪の色も髪型も着物だって可笑しいし異国の人?趣味悪ーい』

「なっ……!!」



何で沖田さんにそこまで言われなきゃいけない訳…?申し訳ないけどアタシはね、とりあえず格好良い人じゃなきゃ付き合いたくないの!純情でも理想は高いんです、分かる?
それなのに趣味悪いって。聞き捨てなんない。



「この人の髪の色が可笑しいんだったらアタシどうなるの?この間色落としに行ったけど色素抜けて金髪に近くなってきたんだけど?面と向かってアタシにまで不細工だと仰るんですか?一度ならず二度までも!」

『名前ちゃんは可愛いに決まってるじゃない。それこそ何度言わせるの』

「はあ?意味分かりませんが?」

『落ち着けって名前、俺と総司はさ、名前が他の男と一緒なのが嫌だったんだよ、それだけだからさ…』

「え?」

『そうだよ嫉妬だよ。僕が居るなりこんな風に知らない男と引っ付いて接吻なんかして。訳の分からない男に囲まれてる名前ちゃんなんか僕は見たくない!』

「は、あ……」



えっと、ちょっと待って。整理させて。
微妙な趣旨で白熱しちゃったけどああだこうだ文句垂れて来たのは嫉妬だって?アタシの手帳見て、プリクラと写真を見て、過去の事なのに2人して嫉妬………?



「っ、」

『あ、赤くなった!』

『ちょっとちょっと。照れてるとこは可愛くて好きだけどちゃんと説明してくれない?いつの間にこういう事したの?っていうかしてるの?』

「だだだ黙ってて!これは過去だから!何ヶ月か前とか何年も前の事だから!」

『今は僕しか見えてないって事なの?』

「どうすればそういう解釈になるのかは分かんないけど…」

『とにかくだ!名前はコイツ等と関係ねえっ事だよな、よっしゃー!!』

『長期戦て事ね…』



お世辞じゃなく本気でハーレムだと思っちゃいそうな現状にアタシは逆上せた顔を必死に扇ぐのだった。やっぱり幸せだよ、ラッキーだよ。




(20101130)







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