長編 | ナノ


 


 07.




アタシがお風呂に上がった頃、丁度良いタイミングで夕御飯が出来たらしく広間へと呼ばれた。
風呂場前に待機してた沖田さん、平助君、それから土方さんには既にイラッとさせれたものの、広間に行ってまた他の皆さんが同じ顔して同じ事を言うもんだから更に苛々は繰返され。この時代での初めての食事だというのにアタシはしかめっ面を隠せず、だけどやっぱり日本人だけあって和食の美味しさは噛み締めてた。



『名前ちゃん、いつまでそんな顔してるの?せっかく可愛いんだから笑ってなきゃ』

「可愛くないんでお世辞は結構です」

『あーあ、土方さんや左之さんのせいで彼女ご機嫌斜めじゃない』

『お前もその理由のひとつだろうが』



聞くところによると夕御飯の支度は順次振り分けられてあって、今回は原田さんと永倉さんだとか。良い意味でも悪い意味でも男らしい料理かと思えば意外にもちゃんと味付けはしてあってビックリ。怒る気持ちも少しは和らいで来た時、隣に座った原田さんがこっちを凝視してる事に気付いて箸が止まる。
何でしょう、まだ何か言いたいってか?



『名前、美味いか?』

「ご飯はとっても美味しいですが」

『そんなつんけんした態度は止めろって。そりゃお前が化粧を落とした変わり様には驚いたがな、化粧してなくても綺麗な女なんだって見惚れてたんだからな俺は』

「え、」

『さっきは何だか変な事言ってたが俺は惚れた女一人が居れば十分なんだ、それにどうでも良い奴に嘘なんか吐かねぇ。これから毎日顔を合わせる女に嘘言っても仕方ねえだろ?』



確かに原田さんは瞠若はしてたけど、他の皆と違って『誰?』なんて言わずに『ほう…』って言ってた気がする。それはこれが本当だっていう事を表してるの?
毎日顔を合わせる人にある程度顔色は伺っても毎度毎度嘘を吐くのも気が引けるのも何となく理解出来るし…



「…アタシ、不細工じゃないの?」

『人の好みは違うからな、万人が口を揃えるなんて事はねえんだろうが…もし俺の前で名前を貶す奴が居た時には考えるより先にぶん殴ってるだろうな』

「アハハッ!正に血の気多いってやつだね」

『これでも昔よりは丸くなったんだぜ?』

「じゃあ昔は周り皆が敵じゃん」

『かもしれねえな』



原田さんの言葉は思うより心地良くてしかめっ面が治まるのは直ぐだった。もしかすると奥さんが8人居るとか浮気性だっていうのは勝手な思い込みかもしれない。女慣れしてるってのはやっぱり譲れないけど。
でも、原田さんみたいな人に褒めて貰えるのは素直に嬉しい。それが例え心底可愛いと思ってなくても、恋愛感情的なものじゃなくたとしても、全然悪い気がしなかった。
そんな中また視線を感じて我に返ると、原田さんとは違う殺気めいた空気を漂わせる人を見付ける。そっちを見なくても何となく予想出来たのは何でなんだろ……



「…沖田さん、怖くてご飯どころじゃないから睨まないで欲しいんだけど」

『睨むなんてとんでもない。ただ楽しそうにしてるから何を話してるのかなぁと思ってね、左之さんなんかと』

『なんか、とは何だ…おっかねえ顔すんなよ総司…』

『流石分かってるね、睨んでたのは名前ちゃんじゃなくて左之さんだって事』

「え、何、2人って仲悪い系?」

『そんな事ないよ。仲が良すぎて困ってるくらいだよね左之さん?』

『というより原因を察してくれ…』

「原因?」



平助君の部屋に居た時も若干感じてはいたけど蛇とマングースの匂いがプンプンする。それ以上にあの時は自分の身の危険を案じてたからあれだけど。
原田さんは誰とでも打ち解けられそうなのに沖田さんは好き嫌いハッキリしてそうだから…やっぱ沖田さんが仕掛けて原田さんが応戦する感じかな。どっちにしろ巻き込まれるのだけは嫌だから気を付けないと、そんな思いで居ると『名前』と予想しなかった声が降ってきた。



『お前、後で俺の部屋に来い。話しがある』

「土方さんの部屋に?話しって…」

『良いから来いって言ってんだ』

『まさか土方さん。彼女に手出すつもりじゃないでしょうね』



え、手を出すって結局殺してやろうってやつ?鬼の副長には人の血も流れてない訳…?!



『馬鹿野郎。アイツの居た時代の事を聞きたいだけだ』

『とか言っちゃって。自分の部屋に泊めてあれやこれやするつもりじゃないんですか?そんな事になったら僕、土方さん相手だって許さないですから』

『馬鹿言ってんじゃねえ。それは平助の仕事だろうが』

『え、ちょ、土方さん!今それを言わなくたって、』

『そういえばそうだったよね』

『そ、総司、落ち着けって、』

『平助。名前ちゃんが土方さんと話しをしている間、僕達も話しをしようか』

『いや、俺は……さ、左之さんと新八っつあんと素振りする約束があるし、なぁ!』

『平助!俺はそんな約束した覚えね――』

『それなら丁度良いや。僕も付き合うよ、左之さんが居るなら尚更ね』

『平助、覚えとけよ…』

『あははははは』



どうやら血の気が多いのは沖田さんもみたいだけど、触らぬ神に祟りなし、そんな事はどうでも良いといったスルースキルを身に付けてるらしい他の人達は構う事なく黙々と箸を進めてた。
ただ土方さんだけは念をおして『飯が終わったら来い』なんて無表情のまま言っていた。あの有無を言わせない感じに思わず身震いしたくなったアタシは頷くしか出来なかったけど、土方さんの言う話しに良い予感は巡らなくて自然と口角が床へ下がってた。
ああーっ!行きたくない!




(20101125)






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