20. リゾットが作ってくれたものを食べて私はまた寝てた。次に起きた時は外が暗くてなっててリビングの方から声が聞こえた。 腰が痛かったから私は起き上がって軽く羽織って出ていくとその先にはリゾットとホルマジオが居る。二人は何か話こんでいたようだったけど、私に気付くと話を止めて顔を上げた。美人さんは珍しくホルマジオの膝の上に居る。 「よぅ、調子はどうだ」 片手を挙げて私をみてる。 「ありがとう、大丈夫」「無理すんなよ」そう言ってホルマジオは座っている横のソファを叩いた。来いって事ね。近づくとタバコと、少しのアルコールの匂いがした。やっぱりホルマジオの前にはタバコの吸い殻がつまれている。 「ちっとは起きていられるか?」 「うん?」 「なら、付き合え」 グラスを振ってる。私も自分のマグに紅茶をだして入れて、ホルマジオの横に座った。煙が一段と近づいた。 「具合は?」 「ダルくって、でも寝たらずいぶんと良くなったわ」 「きっと精神的なモンだ」 「長時間の事だったからな」 ホルマジオの言葉にリゾットが頷いたから、私も知った顔で頷いてみたら、やっぱりホルマジオに頭をはたかれてしまったわ。フフフと笑ってたら髪をかき混ぜられ「お前は笑ってりゃあいい」と言った。 「ホルマジオ?」 「オレはさぁ」 タバコの火をもみ消してから、背をリクライニングに預けて私をちらりとみた「イチがここに住むっつった時、ぶっちゃけリゾットがどんな女に捕まったんだかって笑ってたわけよ」。 酔っているからちょっと呂律がはっきりしないけど。 「コイツ仕事ばっかで女っ気もねぇし。それが連れてきたのはバンビーナだったってのに、また笑っちまったわけ」 「所々失礼だわ」 そしたら笑いながら後頭部をまたたたかれて「今は聞いとけ」。頷いたらやっぱりヒヒヒと笑う。 「オレは別に誰が住もうがかまわねぇと思ってたし、実害がありゃあぶっ殺せばいいぐれぇにしか思っていなかった」 「ホルマジオ」 「わかってるって、まぁ言わせてくれよ。ただな、まさかボスが顔見るなんて思わねーだろ?」 諌めるようだったリゾットを片手を振りながら制止し、ホルマジオは続けていく。 「どんだけオレたちを監視しておきてぇんだろうな」 「監視?」 ハッと自嘲気味に笑った。 「めんどくせぇったらありゃしねえ。けどなイチ」私の方へ向き直ってホルマジオが言う「てめぇは笑っていればいい」 「どういう事?」 「難しく考えんなよ?お前が此処に居たいなら尚更だ」 「私は人形じゃないわよ」 怒るし泣くししゃべるわよ、と言ったらホルマジオは顔を近づけて「意味が違う」と小声で言った。意味?意味って、どういう事?昨日のメローネの一言といい、意味がわからない事だらけだわ! 「はっきり言ってよ」 「残念だが言えねぇんだよ」 「だから!」 あまりのモヤモヤ感に声を上げたらホルマジオが私の顔を両手で挟んでグイッとリゾットの方に向けた。 「つる!首つっちゃう!!」 リゾットと目があった。向こうもきょとんとしてるわよ!珍しいリゾットだわ! 「ホルマジオ!」 「ハハッ!イチがパーティ行った時、コイツ無様なくれぇ落ち着きなかったんだぜ」 「は?」 リゾットが!? 「相当ハコイリだな」 ちょ、ちょっと待って!何一人で楽しそうなのよ!ちゃんと段階を追って話さなきゃわからないわよ! 酔ってなのか赤い顔のホルマジオは私の顔を掴んだまま自分の胸元に倒した。今度は腰が!ホルマジオの上に倒れ込んだ私は自分を支えようと手を出したけど、それさえもつかまえられて、そして私の唇を、赤い舌がなぞった。 あ? と、え? な、にを? 鼻先に、アルコール臭がキツくつく。同時にタバコの匂いもかおった。 舌なめずりをしたホルマジオが目の前にいる。なにしたのよこの赤毛。 「オラッ、呆けてると続きしちゃうぞ」 「…何を、」 「てめぇもだよ」 私の言葉なんて聞かないでリゾットの方を向いて言う「ボヤボヤしてっとさらわれちゃうぜ」。 ふざけたように言うけれど。 キスとは違う、まるで誘うかのような行為。ただし私をじゃなくてリゾットに向けられた挑発のようだと感じた。 振り返ってちらりとリゾットを見れば、いつもと変わらずに無表情にいて、それを悲しく感じる私もいた。だから、無理に振り切るように思考を回転させる。 そう、そうよ! 組織って、この間から気になることばかりだわ!私に知らせたくないのはわかるけれで得体が知れなすぎるわよ! ダメ元でいい私はホルマジオの胸に手をついて、そしてさらに顔を近づけた。 「組織って何?監視されてるって?私の顔見せってなんだったの?」 まくし立てるように言ったらホルマジオはそれまでの雰囲気を一変させて、冷たい目で私をみた。 だから、そういう目が怖いのよ。こんなに近いのに知らない人みたいよ。 「イチ、さっきも言ったろう。てめぇは笑っていればいい」 「ホルマジオ」 「意味がわからない」 私の手がホルマジオの頬から滑り落ちた代わりにホルマジオの手が私の頬を摘んで無理やりに口角をあげてきた。 「…いひゃい」 へへへと笑って離す様子はない「いひゃいってば!」。 「イチ、何かあったらすぐに言え。誰でもいい」 リゾットに言われてるわよ、その事は! 頷いて応えたらやっと頬を解放された。痛かった! 「どんなヤツが来るかも解らなかったが、今ならバンビーナで良かったと思えるぜ」 一瞬見せた冷たい目からまたいつもの表情に戻って、私の頭に手をついて「便所」と立ち上がった。 見送るように視線をやればリゾットが見える。1人でグラスを傾けてる。 「リゾット」 「なんだ」 「意味わかんないわ」 「ホルマジオも言ったろう、解らずともいいからそのままでいろ」 そのまま?ホルマジオは笑っとけって言ったけどそのままとは言ってない。けど、そのままって、そのまま? 「余計わからないわよ」 「それでいい」 話は終わってしまった。どうやってもきっとこれ以上話をしてくれないわ。私は冷めてしまったマグを手にとって、流し入れた。冷たい液体が喉から下に落ちる感覚が妙にはっきりと感じられた。 :::::::::: ホルマジオが帰ってからも寝る気にならなくて、ソファの上で美人さんを捕まえて遊んでいた。あれだけ寝ればそりゃあ眠くないわ。持ち上げてみた美人さんはなんだか大きくなった気がした。 リゾットもぼんやりとしながらそこに居た。ザルは変わらずにまだお酒を流し込んでいる。 特にする事もないし会話もなかったから、ゆったりとした時間だった。そんな時 「イチ」 呼ばれて振り向くとリゾットが手招きをしている。腰を上げて前に立てば1人掛けのソファに座っていたリゾットが私を引き寄せて、珍しい、抱きついてきた。頭を胸につけて。ごめんね、豊満じゃあなくって。 「…どうしちゃったの?」 さらに背中に力が込められた。 これは、もしかして。 甘えられてる、のかしら。 「リゾット?」 「少しこのままで居させてくれ」 すぐ下を見れば銀髪がある。指先でいじると硬めの髪質が跳ねた。普段見ないうなじとか、その広い肩口とか、匂いとか。背をさすると私の背中にある手にまた力が入ったようだった。 美人さんによく似てるわ。だから頭をさすり、髪をなでつけた。悪くないな、そう思った。 |