19.

深夜な時間帯にリゾットの家の玄関にたどり着いた。それでも外からは電気がついているのがわかったから

「ただいまなさい」

言って開ければ、

「おかえり」

重なる声が届いた。覗けば人口密度がすごいわね!全員集合してるわ、何があったのよ!面食らって足が止まっていたらプロシュートに背を押された。

「おかえりイチ!あぁやっぱりメイクも髪も崩れてるじゃないか」
「メローネ」

駆け寄ってきて髪をつまんだり、顔を見たり、忙しい。挙げ句には「靴ズレもある!消毒だから舐めるよ」
「止めとけって」
ジェラートに首根っこ掴まれてメローネは私から遠ざかった。

「イチ」
「ただいま、リゾット」
「疲れているか?」
「ん、少しだけ」
「着替えてからでいい、話が聞きたい」
「話って?」
「何かあったらすべて言うのが、約束だろう」

私の土産話でみんな待ってたの?どんな趣味よ。見回してみたけど、確かに深夜なのにみんなお酒も入らずにいる。

「さぁ、着替えよう」

メローネに言われるまま、私は部屋に向かった。

::::::::::

私が着替え終える頃にはプロシュートもイルーゾォも着替え終えててそれぞれが椅子やソファに座っていた。ソファに囲まれたローテーブルの上、ホルマジオの前にはタバコの吸い殻が山になってる。何時間待ってたんだろう。

リゾットに促されて3人掛けのソファの端に腰掛けた。ちょっとだけジェラートがよけて「おつかれぇ」と言ってくれた。ペッシが私とプロシュート、イルーゾォの分のコーヒーを持ってきてくれた「ありがとね」。
「どうだった」
マグに口をつけようとしたら、リゾットが聞いてきた。
「どうって…、すごかったわよ」
「どう、すごかった」
「現世離れしてるっていうか、あんなパーティ映画の中だけだと思ってたけど実際もあるのね。あと料理がとってもおいしかったわ」
リゾットにも持ってかえりたかったわよ、と付け加えたら隣のジェラートが私の腰に手を回して引き寄せて「いい返事だ」と笑った。

なんだか張り詰めた空気が少しだけ和らいだけど、リゾットとプロシュートだけは難しい顔をしていた。そういえばプロシュートは帰りの車の中でもあまり喋らなかったわね。

「イチ、ほかにもあったろ」
隣のジェラートが言った。なんだかお見通しな様子ね。不思議体験も、みんなわかっているかのよう。リゾットをちらりと見るとやはり待っているかのようだった。

「何時頃か、わからないけれど」
私が口を開いたら、ジェラートの手に少し強く力が入ったのがわかった。
「バルコニーに出た時ベルボーイやホテルマンが走ってくのが見えたの。どうしたんだろって思ってたら騒がしくなって」今日起きた出来事のあらましを話した。みんなは真剣そうに、誰も口を挟まずに聞いてくれた。
「…時間もわからないくらいずっとひとりで、どうしたものかなって思ってたら、イルーゾォが現れて」
帰ってきたのよ、と言えば、向かいにいたプロシュートと目が合った。何も言わなかったけれど。

「以上です!報告終わりっ!」

背筋を伸ばして言ったら、やっぱり隣にいたジェラートが私の頭を肩口に倒させて「おつかれぇ」ともう1回、今度は優しく、ポンポンと頭をたたきながら言ってくれた。

なぜそんなにこだわるんだろうとか、わかっているような気配とか気になるけれど、ジェラートがあやすようにしてくれてるのが本当に気持ちよくてどうでもよくなってきた。上手ねジェラート、癒されるようだわ。だからつい、言ってしまった。

「怖かったわ」

心配なんてして欲しくないから言わなかったけれど

「誰も居なくなっちゃって、本当に、怖かった」

「もう大丈夫だ、みんな居る」



あぁまた泣きそうになってきた。ジェラートってこんな優しい人だったかしら。…失礼な事言ってしまったわ。
強くまばたきをして必死にこらえていたら、ずっと眉間に皺を寄せてたリゾットがこちらを見て

「イチ」

名前を呼ばれた。

「何?」
頭を起こして言えば、神妙な顔をしてる。なんだか今日は怖い顔。

「今回のパーティは顔見せでもあったんだ」
「誰の」
「イチのだ」
「…誰に?」
「組織にだ」

組織?なんの?みんなの会社?意味わかんないわ。
私の正面に座っていたプロシュートがタバコをもみ消して

「騙すように連れて行って悪かった」

そう言った。あぁ会場で邪推すんなって言ったのはもしかして、「私は美味しいもの食べさせてくれるって言われて、美味しいものを食べてきたのよ」
プロシュートは騙してなんかいないんだから、謝ることなんてない。

「それならオレだって、長時間放っておいて悪かった」

「なんで謝るの、イルーゾォは迎えに来てくれたじゃない!」
帰ろうって言ってくれた時どんなに嬉しかったか!

「確かに怖かったし、騙されたと思えなくもないど、でも」

「でも」

あぁ続きが見つからない。




「オレはいいんじゃねえかと思う」

ソルベが珍しく口を開いた。案外低い声ね。

「悪いがプロシュートの方も滞りなく、イチもイルーゾォのスタンドで直接の接触はなかったと言えるだろ、ならばマイナスはないはずだ」

「そうだなぁ」

ジェラートが相槌をうつ。そ、そうよ!何も気にする事なんて無いはずよ!

「なのに、なんでそんなに難しい顔してんのよ…」

最後まで言い終えていいのか、だんだんと力が抜けていくようだったとき、メローネが仕方なさそうに笑って
「オレたちは監視されてる」
そういった。


::::::::::

次の日も休みをもらっていた私はゆっくりと寝ていた。お腹にあたる暖かいものが美人さんだとわかってなんだか安心する。体温が近くにあるっていいわね。

ふとんの中からにゃあと声が聞こえてきた。お腹減ったのかな。何時だろう、気にしたくないけど気になる。起きたいけど起きたくない。元気だけど頭が痛い気もする。昨日のメローネの声が頭を回ってる。

腕を伸ばしていつものカバンから腕時計を引っ張り出してみると、あと少しで午後になる時間だった。やっぱり起きよう!そう思って上半身を起こしたらベッドに逆戻りしてしまったアララ。頭が痛いと思っていたけど目眩なんて。まぁ休みだからいいわ、また寝よう。

瞼を閉じた瞬間にドアがノックされた。2回、3回とされたけれど立ち上がる気分にならずに返事もしなかったら、勝手にドアが開いた。入ってきたのはリゾットだった。

「どうした?」
「…、なんか、起きたくない」
「体調が悪いのか?」
「慣れないことしたからよ、きっと」

ふとんの中から答えたらリゾットが手を伸ばして私の額に触れてきた。冷たい指先が気持ちいい。暫く触れてから、ぺちんと叩き「熱はないな」と言った。

「だから、ちょっと疲れたのよ」
「休めば大丈夫か」

うん、と頷いたら、ベッドの端に腰を下ろした。何か用事でもあったのかしら。話を待っていたのにいくら待ってもしゃべり出さないで、ふとんからもぐり出た美人さんを捕まえて頭を撫でたりしてる。どうしたのかしら。

「ごはん、作らなくてごめんなさい」
「気にするな、飯くらいどうにでもなる」
「美人さんにもあげてね」
「わかっている」

リゾットが美人さんの喉を撫でたのか、ゴロゴロと喉を鳴らしたのがわかった。素直に甘えてる。羨ましいわね。

「リゾット」
「どうした」
「お腹空いた」
「何が食べたい」
「あったかいもの」
「待っていろ」

膝に乗せた美人さんを抱き下ろして腰をあげた。また私の額を軽く叩いてから部屋をでていく。もしかして待っていてくれたのかしら。
美人さんはリゾットに一緒についていってしまった。やっぱりお腹減ってたのね。私もずいぶんとお腹減ったわ。

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