15.

朝ご飯を終えると帰って行くみんなを見送った。リゾットはやっぱり無表情のままテーブルでコーヒーを飲んでた。私もやることは特にないし、一緒にコーヒーを飲むことにする。ぼんやり過ごす時間なんて久しぶりかもしれない。

「ねぇ、今日はもう用事ないの?」
「あぁ」
「仕事は?」
「終えた」
「部屋には籠もらないの?」
「好きで籠もっているわけじゃないからな」

そうなの、と言ったら、そうだ、と返される。おかしな会話。昔から想像のまま喋る私と現実的な返事をするリゾットで会話がよく成り立っていたな、と思った。

「ワイン飲む?」
「相変わらず突飛だな」
「いいじゃない。する事ないし」

朝からどうなんだと自分でも思ったけれど、マッタリとしたこの時間を逃したくなくて、それにいつリゾットが腰をあげてしまうかわからないから、それを逃したくなくて、上等でもないテーブルワインをグラスに注いだ。赤いのをなみなみと注いで差し出すとリゾットは喉を動かして一口下した。

「リゾットの、その喉」
「どうした?」
「動くの、カッコいい」
「いきなりどうしたんだ」

怪訝な顔をしてリゾットが私をみた。そういう顔、私は好きだと思う。なんだか懐かしい気がするから。自分もグラスに口をつけて流し込んだ。

それから二人してのんびりとぼんやりしながらしゃべったりしゃべらなかったりしてた。美人さんが足にすり寄ってきたかと思えば、ふらりとどこかにいってしまった。どれくらい時間が経ったかもよくわからないくらい、マッタリと過ごした頃、随分と呑んだ筈なのに顔色一つ変えないリゾットがポツリと言った。

「あの夜再会した時」
「ん?」
「妙な感覚がした」
「酷いわね」
「懐かしいとかそういう事ではなく、なんというか、まぁ奇妙な感じなんだ」

少しだけ楽しそう。珍しい。感情を出さないリゾットから柔らかい雰囲気がする。

「私は嬉しかったわよ?」
「あぁ」
「リゾットと会えて嬉しかったし、住まわせてもらって本当に感謝してる」
「…」
「ねぇリゾット?」

覗き込むように顔をみてもあまりわからない。多分私は酔っているんだ、と頭の隅っこにいる冷静な自分が思いながらもリゾットの前に立った。昔はよく抱きついていたけれど、今は意味が違うかも知れない。けれど何か確かめたくて酔いに任せてリゾットの膝の上に乗った。そして首に腕を回して、遠慮なく、抱きつかせていただいた。

「イチ」
「私が居て困ったら、遠慮なく出ていけって言ってね」
「遠慮なんてしない」

前にも言ったセリフをまた言ってみた。嫌だったら引き剥がして欲しい。けれどリゾットはそうしないから私はずっと甘えてしまうんだと思う。ぬるま湯は気持ちいい。

「こうしてると安心する」
「重くなったな」

少しだけ高鳴りしてた心臓もいつの間にか落ち着いて、背中をさすってくれる手が気持ちよくって、つい目を閉じてしまった。

安心感はまだ恋愛感情に直結しない。誤魔化すように思考も閉じることにした。


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気恥ずかしいわ。
あれから自分の部屋で目を覚ましたのは夕方で、お腹が空いたと思ってキッチンに向かえばリゾットが珍しく何かを作っていた。完成間近のソレは香草やら何やらを詰めた魚で、ペッシが釣ってきたといっていた。

「食べるか」
「うん」
「もう少し、待て」

ぼんやりしながらその様子を見てたら、酔った勢いとはいえ抱きついたりしたのを思い出してしまった。照れるな、あの時はああしたかっただけで、そのままの感情で抱きついてしまったけど冷静になったら恥ずかしいわ!しかも結果安心感だったとか、我ながら情けない!ごめんなさいリゾット!私甘えてるんだわ!

「リゾットごめんなさい…」
「だから急になんなんだ」
「いいの、言いたいのよ」
それからやがてしてから「そうか」とリゾットは言った。

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