13.

「ギアッチョも食べていくでしょ?」
「オレは食ってきた」
「なら、コーヒーだけでも」

それならもらう、と言ってくれた。メローネはオレにも淹れて!とソファから言ってきた。


コーヒーを淹れながら見れば、メローネはソファにもたれながら何か雑誌を捲りだしたし、ギアッチョは椅子をひいて手持ち無沙汰に何かを探してた。どこからか私の足元を掠めるように美人さんが顔をだして、ギアッチョの膝に飛び乗ると気持ちよさそうに目をとじてた。

「ギアッチョは美人さんの事、本当に好きね!」
「誤解すんな、この猫が寄ってくるだけだ」
「好きな人に寄るのよ」

フフフと笑えば、ギアッチョはチッと舌打ちして、美人さんの頭をグリグリと撫ではじめた。それをつまらなそうに見てたメローネが急に立ち上がって、ギアッチョの許にいた美人さんをヒョイと持ち上げた。

ニャア!と驚いたようにないて少し暴れてたけど、意外にメローネは優しく持ち上げてた。

「意外そうな顔するなよ」
と笑ってる。
「ごめん、でも意外だわ」
「子猫ってところがベネだ」

そう言って顔の高さにまで美人さんを持ち上げて「なんだオスか」と言った。
「どこ見てんの」
「大事なとこだろ」

そうか男か、ともう1度頷いてギアッチョの頭に美人さんを戻して、私の手元にあったコーヒーのマグをギアッチョの分と2つ持っていった。

鍋をかき混ぜながら「ねぇメローネ」と声を掛けたら、やっぱりのんびりと「んー?」と返される。
なんだかその変わりぶりにこっちの調子が狂わせられる気がするわ。
それでもコレは聞いておかなきゃならないから、私は続けた。

「メローネ、さっきギアッチョが来なかったら、どうしてた?」

ちょっと驚いたように目を見開いたのがわかった。それから
「あのまま続きをしてた、かな」と笑った。

直感、とでも言えばいいのかしら。
「嘘」
つい口に出てた。

「メローネ、それ絶対嘘よ」
「なんで言い切れるんだい」
「なんとなく、だけど、絶対嘘よね?」

矛盾してるわね!と自分で突っ込みたくなった!だけど、確信めいたものもあって私はそれを信じたかった。

「んー」

長い返事をして、コーヒーに口をつけて、ちょっと渋い顔をしたメローネ。
やっぱり外側から観察してみるとメローネも相当にキレイな人だと思った。ハニーブロンドの髪にグリーンの瞳、細面の顎から肩にかけてのライン。

「イチがオレの事、本気で殴って来たらねじ伏せてやろうとも思ったけど、まぁ、足まで舐め終えたら止めようとは思ってた」

伺うようにチラリとこっちを見た。あぁ多分これは本音ね。

「やっぱり気持ち悪いわね」
「気持ちよくして欲しいなら最高にしてやるんだがな」
まゆを寄せた私にメローネは不敵そうに笑った。

「なんか焦げてねえか」
それまで頬杖をついて事の成り行きを見守ってくれてたギアッチョが目を細めながら告げた。

::::::::::

「だから今晩は一緒に居るって言ったろ」

遅い晩御飯を終えて、後片付けも全部終わった時、メローネはさも当たり前のように言った。ギアッチョは美人さんを抱きながらクァっと欠伸をした。
「え、でも」
時間は深夜になりかけても二人とも帰る様子はないし、私も一人で部屋に居るのもな、そう思ってた時。

そういえば、私はこの家に来てから夜独りきりになった覚えがないな。必ずリゾットがいるか、リゾットが居ない時は誰かいる、と気がついた。

「明日は仕事かい?」
「お休みよ」
「懐かしい映画がやってるぜ」

リモコンをいじるギアッチョの手が止まった。
「あ!それ!」
「ガキのころ見た気がする」
「オレも」
「私も!懐かしいわ!」
メローネにおいでをされてソファまで行けば、2人並んで座っていた真ん中を空けてくれた。
そのまま深夜映画を3人でソファに座りながら見た。私を真ん中にして、ギアッチョは肘掛けにもたれて美人さんをその隙間に眠らせながらいたし、メローネは私にくっついていた。なんだか変な感じ。でもひどく居心地がいいな、と感じてしまったわ。部屋の電気は一つに消して、無言のまま。

その映画はもう30年も昔のもので、きっとこの俳優も景色も随分と変わってしまったんだろうな、と思う。けれどやはり天才が作り出した絵に惹かれて見出したら止まらなかった。
見終えるころには私は号泣してて、ギアッチョは爆睡してて、メローネは私の頭を撫でてくれてた。

「イチは涙もろいねぇ」
よしよしとされながら、「そんなことないわよ!だけど、だって、なんて悲しい最後なんだろうって」

ティッシュを取ろうと手を伸ばして、窓の外が白んで来ているのに気がついた。さっきまで画面の中は晴れ渡っていたのに、なんだか現実の方が映画みたいだな、と思ってしまった。

メローネが回してくれた腕があったかいな、とか。ギアッチョが隣で寝てる寝息が落ち着くな、とか。朝焼けがどんどん広がって眩しくなってきたから、私は目を閉じてしまった。すると急に眠気が襲ってきて、いつしか意識がなくなってた。


::::::::::


ぬくぬくする。
そう思って目が覚めた。
気持ちいいからもっと寝てたいな、あったかいな。寝返りを打てば、また暖かな温もりがあって、鼻先に匂う人肌とかに安心する。

「…?」

人肌?
あれ、てか、私、寝てた?

目を開けば完全に明るくなった部屋の天井が白くって眩しく目にささるよう。細めながら周りを見渡すと、私とギアッチョとメローネの上にブランケットが掛かってて、そのブランケットの中、私のお腹のすぐ横には美人さんがいた。あったかい、ってきっとこういうことだったのね。
美人さんの頭をなでるとピクンと耳を揺らしただけでよく寝てた。

寝てる二人を起こさないように首を捻ったらキッチンの方から「お目覚めか」と、リゾットのものではない声がした。

ええと、この声は。

「プロシュート?」
「随分仲良くなったもんだな」三つ子のようだぜ、と笑う雰囲気がある。
ガタガタと音がしたからキッチンを見やればペッシが何かを探しているようだった。
「何か見つからない?」
「気にすんな」
「でも」
「モタモタすんなッ」

ペッシを一喝してプロシュートはキッチンへと足を伸ばす。その声やもの音にギアッチョがまず目を覚まして、メローネが反対側に寝返りを打った。

「…、おはよ?」
目の焦点があってないなってわかるくらいぼんやりしてたギアッチョは、ずれたメガネをかけ直してから私の顔を見た。

「どうしたんだよ」
「何が?」

何がじゃねぇ、と小さく言って私の目尻を親指でぐいっと拭った。

「泣き痕がある」
「これは、」

言いかけて、奥の廊下のドアが開く音がして、そこにリゾットがいた。やっぱり眠そうにしてる。またこれから寝るのかしら。

ギアッチョの指が右側から左側にも移った時に、私とギアッチョの間にいた美人さんがにゃあと1回ないた。
「昨日の、映画で泣いちゃって」
「最後まで見てたのか」
「うん」

キッチンから出てきたプロシュートにペッシ、入れ違いにリゾットがキッチンに入ったのがわかった。ギアッチョが拭ってくれた目尻が暖かくて、少し照れてしまうわ。だから照れ隠しのためにキッチンにいるリゾットの方を向いた。

「ねぇ、リゾットがかけてくれたの?このブランケット。ありがとうね!」
届くように言ったら、ミネラルウォーターのペットボトルを開けたリゾットは「知らんぞ」と一言だけ。

「じゃあ、誰?」
プロシュート?と視線を合わせても首を振られた。

「オレっす、風邪ひいちまうと思って…」

オドオドと、プロシュートに気を遣うようにペッシが手をあげた。そんな、怒ってるわけじゃないのに!

「ありがとう、暖かかったわ」
「礼なんて…」

やっぱりハッキリしない態度だったけど、私が言う前にプロシュートがペッシの頭を叩いていたから、それ以上口を挟まない事にした。

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