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ただ、いい人かどうかはまだわからない。
まだ片付かない部屋に何の遠慮もなく入ってきた。遠慮がないどころか、勝手知ったる雰囲気だ。

「あの」
「なんだ」
周りを見渡して、ベッドへと近寄っていく。慌てて散らばっていた服をかき集め端に寄せた。そして「あの、なんで、」、ホルマジオさんの顔を見れば、眉間に皺を寄せてとても面倒そうな顔をしていた。

「オマエなぁ、喋る時ははっきりとしろ。あんまりグダグダ言ってんな」
「すみません‥」

まだイタリア語を上手く喋れないんだもの。グダグダと言うよりはぐにゃぐにゃとした物言いしか出来ないのよ。ただここ数時間で語学力は上がった気がする、悔しいことに睫毛フサフサさんのおかげだけれど。

ベッドに腰を掛けたホルマジオさんが私を見上げるように目を動かしているのがわかった。そして「興味がある点は幾つかあるが」、と前置きをしてしゃべりはじめた。

「オマエがそのスタンドを有効活用出来てねぇってのはよォくわかった。いいか、能力ってのは使いようだ」
「‥えと」
「っつってもよォ、好きな時に使えなきゃあ意味はねェ。今のオマエはラッキーパンチでしかねぇんだよ。まずはそこからだ。プロシュートと交渉したけりゃ能力を使いこなそうぜ」

片眉をあげて私を見ている。
言うことは、なんとなく理解出来るのだけれど、「それには、えっと、どうしたらいいの?」、途方にくれたように聞いてしまった。
糸口があるようで何も見つからない。けれどホルマジオさんはじっとこちらを見ている。

「どうしたらいい、か」
「全然わからない」

クックッと喉を鳴らすように笑い出した。何がおかしいのだろう!こっちは途方にくれているのに!
一頻り笑って、でも口角を上げたままのホルマジオさんは

「考えろ。考えて考えて、そして試せ」

頭をトントンと人差し指で叩きながら言った。


考える、とは。
「そんで行き詰まったらオレを呼べ」
「え?」
「飯食いそびれたから食ってくる。逃げんじゃあねぇぞ」

急に立ち上がって、私の肩を2度ほど叩き出ていってしまった。
バタンと音が鳴ったドアを見ながら、一体何だったのか。途方に暮れまくった私はその場から動けずに、しばらく立ち尽くしてしまった。


**********

スケッチブックを取り出して、珍しく文字を書き始めた。スタンド、能力、最初から行き詰まっているのよ。どうしろっていうの。
ぐしゃぐしゃと書いたものを鉛筆で書き潰したりしていた。どうやったらこの能力を使えるようになるの。彼らはやってくるの。
いつも彼らがやって来たのはどんな時だったっけ。なにかを壊して戻したいと強く願う時、口に出すのが憚られるようなどす黒い感情の時。そういえば名前、聞かれたっけ。名前があるんだな、スタンドということも、固有名詞もあるらしい。えっ、と言うことは喋るの?彼らは喋れるの?
考えながらえんぴつを動かしていくうちに、思い出しながら彼らを描いていた。モサモサとしたあのフォルム、大きな醜い口、何でも食らいつくの。可愛くない彼ら。
どうせ喋るなら意志疎通が出来たらいいのにな、そしたら私は要件を伝えて気を失うこともないだろうに。

ふと思った。
他の人はスタンドで何をしているのだろう。能力って言うからには他人と同じってことはない筈だ。それぞれきっと何かに有効活用しているのだろう。
「ホルマジオさんのは、小さくさせるの‥?」
睫毛フサフサさんが言っていた言葉と、映画館での状況、そしてあの朧気な影。もしかしてだけど、アレがスタンドなのではないだろうか。

能力ってのは使い方次第。
ホルマジオさんはその能力で私を拐って今こんな状況にある。私を調べたかったから。調べてわかったら、何かに活用しようとしたのだろうか。

それにきっとあの睫毛フサフサさんもスタンドを持ってる。けれど私には使わなかった。使わない方が楽だから?それとも使うことが躊躇われたから?いや躊躇いなどないと思う。
切られた髪を触りながら身震いした。

あぁ、でも。すこしわかってきたかもしれない。
髪を掴んだまま、やっと私は動き出せた。









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