ホルマジオ → ジェラート

不快な通話を忘れるには丁度良かった。苛立ちを紛らわせるために噛んだガムはありがたかったし、その足でとりあえずいつものバールに行って酒を飲んだ。持ち合わせが少ないから2杯ばかりだ。どこかのアジアの言葉には宵越しの金はもたねぇっつー言葉があるらしいが、豪気なことだぜ、嫌いじゃねぇ。

それにしてもあの大家め、伝えたっつーの。それに猫一匹増えたところでなんの障害もないだろうに、細かいヤツだ。細かいこと気にしすぎるとハゲるぞ。お、もうハゲてるか。そんなことを思いながらも表通りを歩く。ホルマジオは空を見上げた。いい気分だ、そして思い当たる。

猫1匹で住んでるところを追い出された奴もいたっけな。

喉の奥からクックッと笑いが溢れた。

とっぷりと陽が暮れた。足早に帰る人の間をすり抜けて、さて、どこに行こうか、立ち止まった時だった。

「チャオ!ホルマジオ!」

後ろから声がかけられた。色気のない女の声。聞き馴染んだイチの声。女から呼び止められるなんて嬉しくなるね、晩飯のアテも出来た。
仕事帰りだろうな、なんて思いながらも振り返ればやはりイチがいたが、その後ろに金髪が2人も揃っている。おいおい、予想が外れたぜ。まぁいいけどよ。
「よォ、3人でデートか?」
「バーカ、買い出しだ」
ジェラートが口の端を歪めていう。
「そうなの!そこのマーケットで偶然あってね!」
「へぇ」
「ホルマジオ、これから予定ある?晩御飯たべる?」
「ありがてぇな」
「今日ペッシがね、魚釣ってきたんだって!今頃アパルトに着いてるんじゃないかな、リゾットが捌くの!」

きゃんきゃん吠える仔犬みたいにイチが向かってきた。尻尾が見えるようだ。だから買い物袋いっぱいにモノを詰め込んでるわけか。

「いいねぇ、趣味と実益兼ねてんな。ご馳走になるか」
「実益はまだまだだ」

ハンッとプロシュートは笑うが、いやいやペッシはそれでいいんだよ。新鮮な魚持ってアジトに来るなんて、他のチームにはないことだろう。

それじゃあ、と連れだって歩き始める。自然な流れか前を行くプロシュートとイチの背中を見ながら「そういや、さっきソルベと会った」、ジェラートのとなりに並んだ。
「マジ?」
「リゾットんとこに行くっつってたな」
「あ、じゃあオレと分かれてすぐだな」
ジェラートの片手にも随分とずっしりとした袋がある。コイツは1人でも食いきりそうだ。
ヒヒヒと笑ったジェラートが、見上げながら意地悪そうな顔をした。

「なんだよ?」
「さっき、ガッカリしたって顔したぜぇ?」
「はぁ?」

眉間に皺を寄せてもジェラートは気にすることなく。

「イチが声掛けた時の嬉しそうな振り向きからの、オレたちを見た落胆、って感じか?」
「なんでオレが落胆すんのよ」
「知らねぇよ。けど、そんな顔してたぜ」
「そりゃ気のせいだ」
「なら良いけどなァ」

ジェラートのにやけた顔が、モノ言いたげにこちらを見るからか。

「オレはもっと色気のある女がいい」

そう、こちらもニヤリと笑って言った。そうだ、バンビーナよりもグラマラスでセクシーで頭のいい女がいい。その言外が伝わったのか、ジェラートもハハッと笑って「だよなぁ」、頷いた。
それに少し驚いた。

「お前はソルベが居るからいいだろ」
「バッカ、ホル。それは同系列に考えらんねぇよ」

よくわからねぇが、そういうもんなのか。
ジェラートを見ると機嫌良さそうに口角をあげたまま話を続ける。
「それにな、もっと色気のあるっつーのはオレもわかる。だからこそ不思議なんだ。リゾットはバンビーナ好きなのか?」
「性癖は人それぞれだからなぁ」
口出ししちゃならねぇよ、と付け加えると、前から勢いよく振り返ったイチが「さっきから聞こえてるわよ!」、怒ってんのか笑ってんのかわからない顔で噛みついてきた。

「今日はラッキーな日だったのに、二人とも酷いわ!」
「ラッキーってなんだよ」
「イルにゼリー貰ったし、メローネはお返しをすっごい喜んでくれたし、ソルベとは仲良くなるし、二人には荷物持ってもらえるし!」
「待てイチ、ソルベと仲良くなるってなんだ?」
「普段よりよく話して、ソルベも楽しそうだったわ!」

あぁ、そういう仲良しね。
ジェラートこそ、今焦った声色だったぜ。仕返しに言おうと思ったが、マジっぽいから止めておいた。

「それじゃあよ」
色気が無いことを指摘されて騒ぐバンビーナの手から買い出しの袋を取り上げ「これでオレもラッキーの仲間入りだ」。クックッと込み上げてくる笑いをそのままに、随分と軽い袋をもらいうけた。
「なんかずるい!けど、ありがとう!」
後ろでバンビーナが騒いでいたが、そういう素直な所は嫌いじゃねぇ。
「これでもう1つラッキー増えたな」
「そうね、やっぱり今日はいい日だわ」
何故か片手には白い小さな花を持ちながらフフフと笑うイチを見て、まぁ悪くないな、とも思う。
そんな様子を見ていたからか、「じゃあオレもラッキーに乗っかろうかなァ」、少し後ろを歩いていたジェラートが荷物を寄越してきやがった。
「なんでジェラートのも?」
「さっすがホルマジオ!ラッキーィ!」
心にもないことを棒読みのまま言いやがって。ジェラートの持つパンパンに膨れ上がった袋も押し付けられて、うわ、重てぇなぁ、なんて時にはプロシュートと目があって、そっちも無言で渡して来やがった!

「まてオマエら!オレの腕は2本しかねぇんだぞ!?」
「おぉ、人類共通だな」
「こんな袋3つも渡されたって無理だろ!」
「今持ててるからいけるんじゃあねぇか」
そんな冷たい視線で見るな、プロシュート。
「教えてやる。3つめの袋は持ってるんじゃねぇ、乗ってるんだ」
最後に乗せたプロシュートに向かった。
しかしプロシュートは淡々と告げる。
「ワイン2本入ってるからな、落としたら割れるぞ」
頭の上で悠々と腕を組ながらジェラートはケラケラ笑っていやがるし、嫌がらせかよ!

チッと舌打ちをして、まぁあと5分くらいだろう、と思い直した。バランスを上手くとりながら、何も落とさないように。
何度か体勢を整えながら、アジトのその階段が見えた時、ボロッと何かが落ちたのがわかった。目の端でそれは昼間貰ったガムのパッケージだとわかる。

おい、と声をあげる前に。

イチがしゃがみこんでソレを拾いあげた。そこらへんの粗野な女にはない、そうやってスカートをちゃんと押さえて動く姿。バンビーナだって、一端の女だって思わせてくれる。ヒューと短く口笛を鳴らした。
それに小首を傾げながら「落とし物!」、ヒヒヒと笑いながらイチがオレの持つ袋に入れてきたから

「また落ちるかも知れねえからよ」
「持ってようか?」
「ジェラートに渡してくれ」
「うん?わかった」

そういってジェラートに渡しに行った。
後方から聞こえてきたのは「ホルマジオからのプレゼントよ」。

面白いヤツだな、バンビーナ!つい笑いが噴き出してしまったが、誰も気がついていないよう。まぁ間違いではないが説明するのも面倒だ。
そのまま蓋をして、外階段をのぼりはじめた。


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