パーシスタントラバー(メローネ視点)

朝焼けが眩しい中で眼を細めながら携帯を弄ると液晶の画面が白いヒカリに反射してあまりよく見えなかった。手探りのように通話ボタンを押すと「こんな時間に何考えてる」、苛立ちを隠さない声が返ってきた。相手もわからず掛けたのに、上々の相手だ。今日はツイてる。

「あぁギアッチョ、おはよう!」
「まだ起きる時間じゃねぇんだ切るぞボケクソ死ね」
「待て待て、オレ今興奮してるんだよ!聞いてくれ!」
「朝イチから盛った変態の話なんざ聞きたくねえよ、頼むから死んでくれ」

そういいながらも切らないこの口の悪い男は根は辛抱強いんだろうと内心笑ってしまう。悟られないように話を続けることにした。

「前に言ったろう?仕立て屋の娘の話!」
「‥ジイサンが死んだのに、テメェまだ通ってたのか」
「バッカ、オレの目的ははじめからミサさ!」

まだ朝靄があるような時間帯。路上に人影はなく、あってもまぁ気にならないけれども、遠慮なんてしない声量で話続けることにした。

「そろそろ大きなショックを与えてやればスタンドを発現させるんじゃねぇかと思ってさ!押し倒してみたんだ」
「お前、誰にでも勃つのか。さすが変態」
「いや、やってねぇよ?やっちまいたかったが、それは許されなかった」
「あぁ?」
「死んでも発現してる能力って、あるんだな!あのジイサン、相当な孫溺愛だぜ?!」

話しながらもウズウズとするのがわかる。面白い!なんでギアッチョはこの興奮を理解できないのか、哀れにも感じる。
「どういうことだ」
冷静を装ったような、すこしだけ急いた声が自分の興奮をあおってくれた。

「ミサがいつもしている作業用のエプロン。アレにまだスタンドがくっついてやがる。ハハ!もう2年も経つのにな!コレといって悪さするようなスタンドじゃあねぇが、持ち主を守ろうとする意思が相当に強い!」

噂に聞いていたジイサンの服は主を守ろうとするかの働きをすること。ジャケットを頼み、出来上がりを見たらすぐにわかった。無意識にスタンドを使う素人でなく、理解してかつそれを有効に活用してやがる。最初のうちは組織に勧誘していたが、残念なことに勧誘途中からスタンド使いであることを見破り、渋るうちに亡くなってしまった。

「早いうちにスーツでも頼んでおくんだったな」
「テメェが大事そうに秘密をこねくり回すからオレらも頼めなかったんだろうが」
「そう言うな。だから今、孫を育ててるんじゃねぇか」
「スタンドは一人一人能力が違う。いくら血縁だって、同じ能力になる可能性は限りなく低いじゃねえか」
「あぁ。ミサは多分、そういう能力じゃねえよ」

「‥どういうこった」

今度はイラだった声色になった。

「ミサは、アイツの話がいいんだ。きっと、そうだな。その話に引き摺りこむような力だと思うんだ」
「‥‥ハァ?」
「そんできっとその世界で残酷に殺すんだろうなぁ、あぁ、いい。ベネだ。早くみたい」
ゾワソワと興奮が足元から上ってくるのがわかる。早く開花しないだろうか。やはり成長というものを近くでみるのは愉快でたまらない。
「そんな能力。役立ちそうにねぇじゃなえか」
「ギアッチョは想像力不足だ。無垢な女が自分の妄想で人を殺すなんて、あぁ想像しただけで、なんて可憐で純真なんだ!」


突如応答がなくなった通話口に耳を寄せて答えをまった。が、しばらくその動きはなかった。感動でもしてるのか?
「‥そう思わないかい?」
ギアッチョの感動の言葉を聞きたくて、つい答えを求めてしまったら
「テメェ正気か?」
一段と低いトーンで予想外な答えがきた。

「真っ当さ」
「あぁ悪かった。テメェの正気は正気がなかったな。まぁ言葉が通じるからいいか。よく聞け。総合すると孫娘の能力はなんだ?妄想の中に取り込むってのか?」
「まだ発現してないが、そうじゃないかと思うんだ」
「それにさっそく引っかかってるのは、テメェだけだろ」

お?ギアッチョにしてはマトモな事をいう。近くに居たらそのグルグル頭を撫でてやりたくなった。

「オレからすれば単なるお気に入りのオンナのノロケ話に聞こえるぜ。一回死んで頭冷やして来いクソが」

一気に言われてオレはその通話口の相手の真意を疑ったが、まぁ、ギアッチョは見ても居ないし、理解をしていないのは仕方ないことだろう。

「ギアッチョ、妬いてる?」
「何にだ」
「いや、彼女の素晴しさにさ!あぁでも見せたくないのも事実なんだ!すまないギアッチョ、せめてスタンド能力が発現したら店にくるといい!」
「やっぱり話通じてねえじゃねえか!死ね!ぶち割れろ!」

そうして通話が切れる前にノイズが大きく入り、あぁまた携帯を折ったのだろうと思った時には通話が不可能になっていた。
次にくる時にミサはなんの話をするのかを楽しみにしながら、朝靄の中を歩いた。




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