▼この手に奪いさる
輝くような白いシャツ。上等な服地で作られたスーツ。
…これで君の隣に立てたらどんなに良いだろう。
騎士団長代行から借りたスーツは、
背格好が同じ位だからだろうか
自分のものじゃないかと錯覚する程ぴったりだった。
そろそろ行くかと部屋を出ると、
下町の連中が似合ってるぞとか褒めてくる。
いつもだったら茶化すな、とか返してやるが、
今日は正直そんな気にはなれそうにない。
はは、と軽く笑ってオレは坂をかけ上がっていく。
「ユーリ!!」
登りきったところで声をかけられた。
「…お、カロル?」
いつも上に上げてる前髪を今日は綺麗に下ろしていて、
一瞬誰だか分からなかった。
「おはよう、ユーリ」
「よう、カロル。似合ってんな」
「えへへ…。ユーリもカッコいいよ」
少年はオレをじっと見つめたあと、
何か言いたげに口を開いた。
「―ねぇ、あのさ」
「私たちもいるわよ。おはよう」
「お、ジュディ、…とリタ」
2人とも普段とは違う服を身に纏っている。
優美なそれとは対照的にあからさまに不機嫌な顔を
隠さない少女がオレをじっと睨み付けてきた。
「おっさんは…騎士団の方で出るだろうから、
皆揃ったな。さ、行こうぜ」
その視線をかわして、オレは歩きだす。
「…あんた、それでいいの?」
すれ違い様に低い声で放たれた言葉に
オレはぴたりと足を止めた。
さっきカロルが言いかけたのもきっと同じことだろう。
「……どういう意味だ?」
「はぐらかさないでよ!!」
「……」
少女の視線が痛い。全身を貫かれてるかのように。
「どうして…?」
俺に向けられていた視線は地面へと移された。
ちらりと見える目にはうっすらと涙が滲んでいる。
「どうしてそんな冷静にいられるのよ!!
あの子の…エステルのことなんて
どうでもいいわけ!?」
「オレは」
自分でもびっくりする位低い声が出た。
隣にいたカロルがびくっと体を震わせる程に。
リタには背を向けているから、
彼女がどんな顔をしているかはわからない。
「…オレは…あいつが自分で決めたんなら、
何も言わない。言う必要もない」
「ユーリ…」
「あいつの決断なんだ。ちゃんと言ってやろうぜ。
…おめでとうってさ」
ニカッと笑って言うと、少女は納得いかない顔を
みせたものの、それ以上は何も言わなかった。
そうしてオレたちは歩きだす。
市民街を抜けて、貴族街へ。
近づくにつれて通りは華やかになっていく。
色とりどりの花がとても綺麗で。
―全ては彼女のため。
天気は快晴。リタの心は曇りぎみ。
――俺の心は――?
そんな今日はエステルの―副皇帝である、
エステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン様の結婚式。
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