向かう先はハッピーエンド


※ハルルの樹に関係するサブイベ後のお話
※ユリ←エスめ



 そろそろ休もうとベッドに入り、瞳を閉じた後のこと。微睡みに飲まれかけた時、わたしの脳内にある光景が駆け巡っていった。忘れてはいけない、書き留めておかなくては、そう思うと同時に慌てて飛び起きると、鞄の中をごそごそと漁る。そうして取り出したのは、薄桃色の罫線が引かれたメモ帳と、お気に入りの筆記具。それらを手にしたわたしは、机へと向かい、机上の明かりを灯した。
 始めは箇条書きでもいいから書き留めておこうと思っていたはずだったのに、あれもこれもと想像が膨らんでどんどん進んでしまう。纏わりついていた眠気もいつの間にか姿を消し、わたしはひたすらペンを走らせていた。
 そうして脳裏の光景を文字に起こすことに没頭していると、紙にひとつ影が落とされて。それと同時にわたしの頭にもひとつ、拳が軽く落とされた。


「あたっ」
「……ったく、何時だと思ってんだよ」
「……あれ、ユーリ、いつ入ってきたんです?」
「今だよ。灯りが漏れてんのにノックしても返事がねえから勝手に入ったの」


 ちょっぴり痛む小突かれた場所を摩りながら顔を上げれば、そこには呆れたような顔を見せるユーリ。慌てて近くにある時計に目を向ければ、短い針は布団に入った時よりも一つ先に進んでいた。


「ご、ごめんなさい」
「書きたいのもわかるけど、もうちょい時間を考えろ。寝不足でぶっ倒れても知らねえぞ?」
「……ユーリだってこんな時間まで起きてるじゃないですか」
「オレはただ水飲みに起きただけですー。誰かさんみたいに悪い子じゃないんでな」
「……もう、ユーリ、意地悪です」
「で?どんなお話……」
「だっ、駄目です!」


 ぷう、と頬を膨らませたわたしのことをけらけら笑いながら紙を覗き込もうとした彼の動きに気づき、わたしは咄嗟に文面を隠す。そんなわたしの行動に彼は顔をしかめてみせたが、直後に一転してにやりと口角を上げた。


「……なんだ?見せられないようなお話でも書いてんのか?童話なのに大人向け、みたいな」
「そ、そんなんじゃないです!単なるお姫様と旅人のお話です」
「お姫様、ねえ……単なる話なら見せてくれてもいいだろ。いつもなら聞いてないのに教えてくれるじゃん」
「う……。と、とにかく今日のお話は駄目です!」


 メモ帳を閉じて、わたしはぶんぶんと顔を横に振る。
 ハルルの子どもたちや花の精霊のように、わたしの書いたお話を誰かに喜んでもらえたら、と思いついては空いた時間を使って着々とお話を綴っていく。そうして出来上がったお話を彼を始めとした仲間たちに読んでもらうことが多い。

……ユーリは本を読むのがあまり好きではないのか、滅多に読んでくれないけれど。

 だから、彼が珍しく興味を持ってくれたのも嬉しいし、読んでもらいたいのだけれど、このお話だけは駄目。
 城から出ることを許されなかったお姫様と、突如彼女の元に現れた一人の旅人。本来出逢うはずのない二人が巡り逢えた奇跡の夜、そこから始まる物語。高価な宝石のように丁重な扱いを受けてはいたものの、その代わりに自由を奪われていた彼女。そんなお姫様相手に物怖じもせず、砕けた口調と柔らかな態度で接してくる彼。そんな二人が成り行きで城を飛び出し、ともに世界を歩き、色々なことを知っていく。お姫様は、それと同時にそれまで文面でしか知らなかった恋愛の情も知っていく…というような。

――そう、わたしと同じように。

 メモに綴られたお姫様と自分を重ねて。そして、旅人には…彼の姿を、重ねて。そんな二人の迎える結末の部分に差しかかろうとしたところで彼に止められてしまったのだけれど。決定的な描写は描いていないとはいえ、少しでも彼とわたしを連想させるような表現があるから、勘の良い彼に気づかれてしまうのが恥ずかしい。
 そして、お姫様と同じようにわたしの胸に芽生えた想いに、答えを出されてしまうのが怖かった。


「駄目、なんです……」
「ま、いいけど。完成したのか?」
「まだです。もうそろそろ終わりに向かっていきます」


そう呟いた後、わたしはそっと目を伏せる。
この物語も、現実も、まだまだ未完成。この恋がやがて実るのか、それとも実らぬまま枯れていくのか。どんな結末を迎えるのかは、物語も現実も、わたし次第。


「……ハッピーエンドになるといいな」
「え?」
「よい終わりの方が気持ちいいだろ?」


 聞こえてきた声に思わず目を開ければ、彼はニッと笑って白い歯を見せる。
 ハッピーエンドを望んだ彼。それは、きっと物語の結末に対してそうあってほしいという希望だろう。そうとは、わかっているのだけれど。


「……そうなると、いいですね」
「いや、書くのおまえだし……ってか、なんでそんなにやにやしてんだ?」
「ふふ……なんでもありません!」
「……まあいいや、さっさと寝ろよ、お姫さま」


 彼が現実もそうであってほしいと願ってくれているのかな、なんて都合のいい考えが脳内を巡ってしまって、つい頬が緩んでしまう。何も知らない彼は、そんなわたしを見て訝しそうな顔を見せたものの、おやすみ、とだけ言って部屋を出て行った。
 わたしはそんな彼の後ろ姿を見送った後、メモ帳を荷物の中にしまうと、灯りを消してすっかりと冷え切ってしまった布団の中へと潜りこむ。そうして真っ暗な部屋で瞳を閉じれば、物語の続きが瞼の裏で始まって。
 二人の結末はこれから決まっていくのだから、多数の選択肢が存在しているはず。だけど、この時のわたしの頭の中で描かれていた選択肢は、ただひとつだけ。その結末に向けて、お姫様と旅人は既に歩き出していた。




向かう先はハッピーエンド


(もし彼がこの物語を読むときが来たら、それは現実も同じ結末を迎えたとき、です)


***

 7月1日はユリエスの日、とどなたか素敵なユリエスクラスタさんが唱えたことで、Twitterで毎年癒されています。
 それと同時に7月1日は童謡の日なんだそうで、両方をかねて。ユリエスの日最高!

 文章の流れからするとどう見てもユリ←エスなのですが、「お姫様と旅人の話」という点で実は勘のいいユーリさんはそこでぴんときてて、エステルと同じように物語の二人と自分らを重ねて、ハッピーエンドを願うユリ→←エスな話でもあるといいなとか勝手に願ってます…もはやこじ付けのような(汗)
 ユリエスの日だから、想いが一方通行のお話よりは両片想いでもいいから互いを想っていたほうがいいよね!と。でも、結ばれて終わりじゃない、その先も続くんですよねわかります!

ちなみにユーリさんが言う大人向けの童話っていうのは、読者対象が大人な童話ではなく、恐らく官能小説の類のことですかね(笑)



[ 1/1 ]



[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[short TOP]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -