真っ黒な世界で輝く君が僕の救い


 目を開けば真っ暗な世界。手を伸ばして動かしてみるけど、纏いつくのはオレを包む冷たい空気だけ。
 そこにいたのは、オレ一人だけだった。エステルもカロルも、リタもラピードも、おっさんもジュディもフレンも。誰ひとりいない。まったく知らない世界。


真っ黒な世界で輝く君が僕の救い


 ああ、どうして今はこんなことになっているのだろうか。ザウデのてっぺんでオレたちは闘いを制した。それは記憶にある。諸悪の根源、アレクセイ。あいつの身体を剣で切りつけて。なんやかんやで奴の真上に巨大な魔核が落ちてきて、それを避ける際にエステルたちと離ればなれになった。そこで、オレは……

――あ。

 そうしてようやく思い出す。その直後に起きたことを。
 自身に向けられたナイフを認識した直後、鈍い痛みがオレを襲う。オレから離れたナイフの先には銀によく映える赤黒い血が纏わりついて。そのナイフがカランと音を立てて地面に落ちて、その紅で白い床に模様を描いていた。
 オレを刺した騎士――フレン隊の副長、ソディア。いつも鋭い視線を投げつけてくる彼女は、青白い顔でガタガタと震え、自分を見失っている。
 その姿を捉えた直後、オレの意識はぷつりと途絶えた。ただ、意識を飛ばす寸前に感じたのは身体が後ろに引っ張られるような感覚。あのとき後ろにあったのは冷たい空気と遥か下方に海。そして、床に叩きつけられた感覚は身に覚えがない。

――ということは、だ。

 たどり着いた答えは『死』。
 ようやく暗闇に慣れてきたからか、頭がちゃんと働くようになったみたいだ。こんな時まで冷静になれるなんて、我ながら大したもんである。

――なら、ここは天国?

 いや、天国ならもっと明るいだろう。

――じゃあ、地獄?

 そりゃこっちの方がオレにはお似合いかもしれないが、それなら絶対ドンが待っているはずだろう。しかし周りを見ても依然として暗闇だけで、奴の姿は見当たらない。天国でも地獄でもないとしたら、ここはどこなんだろうか。

――地獄にすら行かせてくれないってか。

 考えているうちに、ふと、気が付いてしまった。
 己の左手は、汚れを背負った手。その罪がいかに重いかは自分でもわかっているつもりだった。だが、まだまだ理解が足りないのだろうか。それとも、他人の人生を奪っておきながら仲間に囲まれてのうのうと生きているのがいけないのだろうか。だから『孤独』という罰がオレに与えられたのだろうか?


「………う…わ……」


 聞こえるのは自分の声だけ。孤独を自覚すると、あっという間に恐怖が身を包む。目を瞑っても暗闇に包まれている現状はは変わらなくて。震える身体を強く抱きしめるが、震えは収まることを知らないかのようで、背中がぞくりとする感覚が一向に拭えない。

――怖い。

 視界の黒が揺れて歪んだが、色は変わらない。助けを呼ぼうと叫ぶが、叫びも虚しくこだまするばかりで、恐怖がますますオレを支配する。

――――怖い…!

 そうして絶望の波に飲まれそうになった時、暗闇を一筋の光が切り裂いた。
 光によって開いた空間から、白いグローブに包まれた腕が伸びてくる。手首に輝く見覚えのある、オレのよりは高級そうな赤い魔導器が目に入った。


「エステル……」


 こんな汚れたオレでも、おまえは助けてくれるのか?
 まばゆい光に耐えながら薄く目を開けば、桃色の髪の少女が手を差し出している。その顔には旅を始めた頃からなんら変わりのない、清廉潔白な微笑みを浮かべて。
 オレは恐る恐る手を伸ばし、がっしりとその手を掴む。
 同時に腹部を激しい痛みに襲われて。その痛みが和らいできてから目を開くと、そこには見慣れた天井があった。



***

 ザウデ後からユーリが目覚めるまで。それを書きたいって思ったのですが結構意味が分かんなくなってしまいましたね…。
 ただ、目を覚ますきっかけがエステルだったらいいなというそんな願望だったんですが何故かこんな暗い話に。うーん。




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