▼extreme happiness
※現代パロディ(きっとユーリは会社員)
いつもはわたしたちの話し声以外には何も聞こえないこの部屋の片隅に、優しいメロディを奏でるオルゴールを置いて、流してみたり。その中央に位置するテーブルの端の方に、可愛いなとこっそり注文しておいたテーブルフラワーを置いて、いつもより華やかに飾ってみたり。普段よりもちょっといい食材を使ってみて、手間をかけて彼とわたしの大好きな料理を作り、お皿への盛り付け方もいつもより綺麗に見えるように工夫してみたり。
自宅なのに、部屋着ではなく外出用の衣類に袖を通して、おそらくあと数分で開くであろう扉の音を、ひとり待つ。彼の帰りを待つこの一分一秒が長くもどかしく感じながらも、わたしは幸せな気持ちで胸がいっぱいだった。
――それは、今日が特別な日だから。
やがて扉の向こうから軽快な足音が聞こえてきたかと思うと扉はすっと開かれて、そこから彼が入ってきた。
「おかえりなさい、ユーリ」
「ただいま、エステル」
笑顔で彼を迎えれば、彼も笑顔で応えてくれた。
わたしが彼の鞄と背広を受け取ってクローゼットへとしまっている間に、彼は洗面所で手洗いを済ませて。その後、先ほど飾り付けた室内へと足を踏み入れた。
スープとライスを器へと盛り付けた後に、テーブルを挟んで彼の向かいへと腰を下ろし、いただきますとつぶやいた。彼がどんな反応をしてくれるかと密かに様子を窺っていたら、うまいな、と笑顔で彼は食べてくれていた。わたしもそんな笑顔につられて、同じように頬を緩ませてしまう。もちろん、その笑顔には喜んでくれた嬉しさもそれに含まれるのは言うまでもない。
その後、満腹感に包まれていたものの甘いものは別腹、というものだろうか。彼が帰り道に買ってきてくれた小さくて甘いケーキを、さっぱりとした味わいの紅茶とともに楽しんで。
何気ない会話が区切り良く終わったところで、わたしは手にしていたフォークをそっとお皿の上へと置いて、彼の方をまっすぐ見た。
「……ユーリ、今日は何の日だか覚えてます?」
そう問えば、彼も食べるのを中断して、フォークを置く。こちらを見つめる彼は、にっこりと笑みを浮かべて。
「……オレたちの大事な日、だろ?」
忘れるわけないだろ、と笑いながら、彼は答えた。
そう、今日はわたしたちが愛を誓い、パートナーとして人生を共に歩んでいくことになった、特別な日。
互いに仕事などで日々忙しく、同じ屋根の下で生活をしているというのに、ゆっくりと二人でいられる時間は決して多いとは言えない。それでも毎年この日だけは、必ずこうして二人の時間を設けることにしている。約束したとかではなく、気が付けばいつしか週間というか、恒例行事というか、その類のものとなっていた。
決して長いといえる時間ではないけれど、一緒にいられるこの時間は一秒たりとも無駄にできない、至福の時。この幸せなひと時の中で、ふたりの愛をますます深めていく。それは長い月日を経てもなお、冷めることは知らないようで。
もちろん普段の愛が薄れているとか、そういうわけではない。それでもこの特別な日は、一段と彼への想いが強くなる。好きだなんて言葉じゃ足りないくらい、想いは溢れて。それはもう、旅した仲間たちから呆れられてしまうほどに。
彼と交わす言葉、感じる彼の温もり、すべてが愛おしい。
来年だけじゃない、その先も。わたしは彼と愛を紡ぎながらこの幸せに包まれているのだろう。
根拠などはないけれど、そう確信していた。
extreme happiness
幸せな時間を、ずっとあなたと。
***
ユリエスで2011夫婦の日のお話でした。夫婦の日、というか結婚記念日のお話です。
エステルはすごく記念日などを大事にしそうです。ユーリは関心なさげにしながらも覚えていたらいいなという妄想から、幸せな気分で書いておりましたー!
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