本来なら今日は朝からカフェのバイトに行き、そのまま夕方からいつもの和菓子屋さんへ行く予定だったのだがおばあちゃんがぎっくり腰になってしまったから病院に行くため臨時休業すると電話がきた。
電話越しでお大事にと伝えたけど、心配だし困ってることがあれば力になれるかもしれないから帰りに少し寄ろう。そう決めてから電話画面を閉じ無料のチャットアプリを起動する。


『突然だけど夕方からのバイトがお休みになったからお昼すぎくらいに帰ります(´・ω・`)』


相手は今家にいるであろう忍足くん。
連絡手段のない彼にこの連絡方法を提案したのはつい昨日のことだ。早速使うことになるとは


『了解です。ほなお昼は一緒に食べよか、待ってます(〇-〇)』


返ってきた文章につい笑みがこぼれる。特に最後に付属された顔文字は、私に合わせて返してくれたのか
往来彼自身がわりと使うタイプなのかは分からないけど彼のトレードマークである丸眼鏡が再現されてて面白い。

そういえば、彼のあの眼鏡は伊達なんだとか。
つい教えてもらった時のことを思い出す。

私の帰りの都合上、彼には先にお風呂に入ってもらってるのだけど、お風呂から出て洗面所で髪を乾かしていると眼鏡がおいてあって、
さっきすれ違った時にはタオルで隠れていたが眼鏡はしていなかったような気がする。私は眼鏡を持って彼の元へ行き


「忍足くん、眼鏡置きっぱなしになってたよ」
「ん?あぁおーきに。今ちょうど探してたとこやねん」
「…….」
「どないしたん?」
「いや、裸眼だとどのくらい目悪いのかなってふと気になって」
「んー」


私の言葉に彼は片手を顎に添え考える素振りをすると、ゆっくりと私の頬を両手で包み込む


「……へ?」
「どんくらいかっちゅーと……」
「うぇっ!?あの、忍足くん??」
「んーもうちょい」
「えっえっ」


ぴとりとお互いのおでことおでこがくっつき、それでもなお近づこうとする彼に私は動揺を隠せない


「???っっ」
「…………ぷっ苗字さん顔真っ赤、力みすぎやわ」


そう言うとさっと離れていく忍足くんは、いつの間にか私が持っていた眼鏡をかけていた


「い、いきなり近づいてきたからびっくりしたの!……でもあんなに近づかないと見えないなんて0.0なんとか?」
「まぁ視力で言ったら両目とも2.0なんやけど」
「は?」
「これ、伊達眼鏡やねん」


そう言って笑う彼の顔にはイタズラ成功と書いてあるような気がして、ついついムキになって怒ってしまった。

だめだめ、思い出したらまた顔が熱く……忍足くんは時々びっくりするほど大胆なスキンシップをとってくる。
まぁからかわれているのは分かっているけど、いかんせんあの顔にあの声だ……いくら相手が中学生と言えども心臓はうるさいくらいに反応してしまう。
それでも時折見せる年相応な顔や不安そうな顔を見るとほおってはおけなくて……
それに……多分私は忍足くんにからかわれることが嫌いじゃなくて……


「なになに、彼氏のことでも考えてんの?」
「……へ?!ち、ちがっえ、何でですかっ」
「顔にやけてるよ?」


バイト先の先輩に指摘され私は慌てて顔を引き締める。彼女は大学の先輩でもあって、私にこのバイトを紹介してくれた人でもある。


「いいなー幸せって感じ」
「いやいや、そんなんじゃないですって」
「どんな人なの?」
「うう、だから彼氏とかじゃないです……っ」
「見た目は?イケメン?」


ニヤニヤしながら追求してくる彼女に私はたじたじになってしまう。
と言うか人の話聞く気ないですよね?!


「彼氏じゃないですからね……?年もすごく下だし」
「えー今どき10.20の歳の差くらい気にしなくない?イケメンならなおさら!」
「……え、そ、そうなんですか」
「そーそー年下もアリでしょ。でイケメンなの?」

先輩、イケメンへの執着すごいな……

「えーと、顔はそうですねイケメンだと思います……あとちょっとイタズラ好き?」
「はは、そういうとこは年下っぽくて可愛いじゃん」
「でもからかわれる方は大変なんですよ」
「あぁ、そーゆーことね。まぁ名前ちゃんってからかいがいがあるもんね?気持ちわかる」
「えー……」


その後もどんな人なのかと質問攻めにされるが、改めて考えみると私は忍足くんのこと詳しくは知らないんだよね。
比較的ゆったりした時間の中、先輩とおしゃべりをしたり作業をしていると、あがりの時間だよと声がかかり


「あー残念、もっと聞きたかったのに……今度写真くらい見せなさいよね?」
「えー期待はしないでくださいね……あ、お疲れ様です」


写真か……あまり考えたことなかったけど、いいかもしれない。



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