昼と夜の堕天使


※暴言、暴力の描写があります。少し暗め。


「田中唯子と申します。よろしくお願いします」

花が咲いたような笑顔だった。
一身上の都合で退職した社員の代替として採用されたのが、田中唯子だった。彼女は仕事の飲み込みが早く、即戦力として申し分なかった。器量が良いことに加え、朗らかで人懐こい性格の彼女は、あっという間に社内の人気者になった。

入社から半年が経った頃、終業後に彼女を食事に誘った。あわよくばという気持ちがあったが、こちらが口を開くより先に、ピンク色のリップグロスを引いた唇が動いた。

「セックスしませんか。会長」
「田中くん、君は…」
「そのつもりで私を誘ったんでしょ?」

その夜の出来事は、今でも忘れることができない。
彼女は性に対して非常に奔放的で、飽くことを知らず、性獣という言葉がふさわしかった。それは清楚な外見からは到底考えられないものだった。

翌朝、バスローブ姿で淡々と化粧をする彼女は普段と何ら変わらない様子で、昨夜のことは淫靡な夢だったのではと思った。しかし、自身の首元にいくつもの内出血の痕を認めて、それが現実だと知った。見慣れたはずの自分の裸体が、ひどく扇情的なものに感じられた。

「義孝…あなたってすごく素敵」

鏡の前に立ち尽くす俺を、彼女の細い腕が抱きしめた。可憐な笑みを浮かべる彼女には昨夜の淫らさのかけらもなく、その凄まじい差異に目眩を覚えた。

女性との経験はそれなりにあると思っていたが、一晩で何度も上り詰め、これほどまでに興奮を覚えたのは、彼女が初めてだった。彼女曰く、俺たちは体の相性が良いらしい。それ以来、プライベートで会うたびに体を重ねた。この関係について改まって話をしたことはないが、これがセックスフレンドというものなのだろう。


また、彼女は性に関する認識が常人とは異なっていた。端的に言えば、彼女にとって快楽とは食事や睡眠をとるのと同じことだった。だから、低用量ピルの処方箋を目撃した時もさほど驚かなかった。そうした性癖が原因なのか定かではないが、特定の恋人もいなかった。

しかしながら、誰とでも寝ることは社会通念上許されない。興味を持った俺は、不躾な質問と自覚しつつも、どのように相手を選別するのかと聞いた。
彼女は多くを語らなかったが、最低限の決まり事として、仕事で関わりのある者と既婚者とは関係を持たない、というものがあった。そのルールに従うと俺は対象から外れるのだが、例外である理由を尋ねても明確な答えは得られなかった。





『二週間ぶりに休みがとれた。今から会えないか』
電話をかけたが繋がらず、仕方なくメールを送った。すると、彼女はすぐに家にやってきた。

「お仕事お疲れさま」

ドアを開けるなり、彼女は嬉しそうに抱きついてきた。彼女に喫煙の習慣はない。にも関わらず、長い髪からたばこの臭いが漂ってくる。こういうことは前にもあった。
たばこを吸ったのかと尋ねると、どことなくばつが悪い顔をして、首を横に振った。

唇を合わせて、ひとしきり舌を絡ませた後、華奢な体をベッドに押し倒した。下着をずらして秘所を広げ、乱暴に指を突っ込む。程なくしてどろりと伝った白濁液は、独特の臭気を放っていた。

「やぁ…出ちゃう、見ないで」
「他の男と寝た後で、よくここへ来れたもんだ」
「ごめんなさい。私、義孝に会えなかったから、寂しくて…」

同じような台詞をこれまでに何十回聞いただろう。そして飽きもせずに彼女を抱く俺も、相当の好き者なんだろう。

「あっあっ…!義孝の指っ気持ちいい」
「唯子…」

そのまま指を出し入れしていると、先ほど流れ出た白濁液とは異なる透明の粘液が溢れて、シーツを汚していく。
既に勃起している自身が彼女の太ももに当たって、彼女が上体を起こした。淡いピンク色のネイルカラーを施した指先が、挑発するように股間の膨らみを撫でる。うっとりとした表情で彼女は言った。

「ねえ、もう欲しいの…挿れて」
「……」
「義孝ぁ…」

縋るような声が耳障りで、大げさに舌打ちをしてかき消した。それでも耳にまとわりついて消えず、不快だった。快感を得られるなら誰でもいいくせに、なぜそんな甘い声を。

はやる気持ちを抑えつつベルトを外して、スラックスを中途半端に下ろす。猛り立った自身に避妊具を装着し、一気に突き入れた。

「あっん…!!すごい、大っきい」

誰のものと比較しているのかと聞こうとして、すんでのところでそれを飲み込んだ。それを聞いてどうするというのか。誰と比べられようが関係ない。欲望を吐き出すことに集中するだけだ。

「んぁっ!あっ、あ!気持ちいいっ!」
「ああ…っ、唯子」
「義孝も、気持ちいい…?」

とろけた表情で見つめられて、心を見透かされた気分になる。

「この淫乱女」
「あぁっ!そう、なの…私っごめ、なさっ…インランで、ぁんっ…!ごめんなさいっ!!」

過去の経験から、こうして突きながら罵ってやると悦ぶことを知っていた。挿入してから数分と経っていないのに、彼女の目は焦点が合わず、シーツを握りしめて快感に耐えている。

「お願い、いつもみたいに…」

彼女のその言葉を合図に白い首を掴んで、指に力を込める。

「かはっ…!よし、たかっ…!苦し…」

息ができなくなった彼女の体が跳ねる。膣内がぐっと狭まって、断続的に収縮した。それが首を絞めたことによるものなのか、快感によるものなのかはわからなかった。
収縮しているにも関わらず容易に出し入れができるのは、そこが一層潤いを増しているせいだと気づく。

「乱暴にされて感じるとはな」
「だらしない×××だ」
「まともに締めることもできねえのか」

腰を強く打ち付けながら、低俗な台詞を淀みなく発する。俺はサディストなどではない。しかし彼女が望めば、本来の自分とは異なる姿を演じることができた。

「ん、うっ…ぐっ…」

固く閉じた彼女のまぶたから涙が伝い、首を絞めていた手を慌てて離した。快感を得ることに集中するあまり、力が入りすぎたらしい。拘束から解放されて、酸素を求めた喉がひゅうっと鳴った。

「唯子…俺は、」
「私、平気だからっ…もっとして!」

続きをせがむ彼女の膣内は、既にびくびくと痙攣を始めていた。汗ばんだ体を抱き寄せると、より深く繋がって、快感の波がどっと押し寄せた。

「義孝!すき、すきっ…!ああああっ!!」

彼女の絶叫が、耳を震わせる。数秒遅れて、自身も絶頂を迎えた。





体の熱が引いて冷静さを取り戻した俺は、彼女の台詞を反すうして、ひどく動揺していた。
『好き』だと?俺たちの関係はセックスフレンドではなかったのか?

「義孝…義孝…」
「…ここにいる」

ぐったりとうつ伏せに倒れた彼女に名前を呼ばれる。頬に触れると、聞き取れない声で何かを呟いて眠ってしまった。
行為の最中、感情が高揚してあんなことを口走ったのだろう。そう自分に言い聞かせた。

可憐な容姿と、男を虜にする体、そして性に対する執着。それらを併せ持った彼女は、危うい存在。だから、いっそ縛って閉じ込めて、どこにも行けないようにーーー。
不意に浮かんだ不埒な妄想をかき消す。

自分の思うままに自由を奪うことなどできないし、彼女の欲望を抑えつける術も知らない。それでも、手放したくないと思う。

冷たいシャワーを全身に浴びても劣情は消えず、頭を支配したままだった。



2018.5.4
タイトル:腹を空かせた夢喰い

 

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