変わらぬものを、僕らは愛そう | ナノ
「気を付けろよ」


相変わらず男装の私に、左之さんからお見送りの言葉。
今日はこれから幕府の任務だ。どこかの大名に媚びへつらってくるわけなのだが、屯所から出るまでは女の恰好ができないため、男装である。


『なんか左之さん、冴えない顔ですね』


そう言えば、当たり前だろ、と返ってきた。


「そりゃお前、考えてもみろよ。せっかく帰ってきたと思ったやつが、しばらく離れるんだろ? そりゃあ、俺に限らずみんなそうなるだろうよ」


ああ、ほらまた。「仲間である」という認識がわかる表現が節々に挟まれる。左之さんだけじゃない、平助だって新八さんだって。あの土方さんからでさえ感じるのだ。


『左之さん、私は―――』
「もう仲間じゃない、か?」
『そうです、そのとおり』
「お前がどう思ってようと勝手だが、俺たちがどう思っていようとそれもまた俺たちの自由だ」
『……それじゃあ、行ってきます』


朝早くから起きて見送ってくれる左之さんは優しい。
今度はどんなお偉いさんだろうか。いつものように、それ以上なにを思うでもなく任務先へと向かった。











トン
周りに誰もいないことを確認した後に静かにふすまを閉めた。もう夜も深いせいか、空気がしんと静まり返っている。屯所中にふすまの音が響いているのではないかと思えた。


「どうだ、なつめの様子は」
「どうだ、って言われてもな。……あいつは変わっちゃいねーと思うぜ」


幕府から一人、新選組に配属されると決まってから、俺たち幹部はどう対応すべきかをずっと話し合った。
役人さんは、当然羅刹のことを知っているはずだ。
羅刹に関して起きた事件は逐一報告するのか。どこまでそいつのことを信用して任務を任せるのか。まずそいつは、いったいどのくらいの戦力なのか。


しかし、来たのは俺たちのよく知るなつめだった。いや、よく知っていたというべきだろうか。


「自分と新選組との間に線を引いてはいるが、……俺はあいつを信じられる」


昔の彼女は強かった。総司や斉藤にも引けをとらないほどに。だが今はあれからさらに腕を磨いているはずだ。どれほど強くなったのだろうか。


「そうか。お前がそう言うのなら、」
「だけど、まだ時期じゃない、」
「……どういうことだ?」
「もう少し、待ってやろうぜ、土方さん」


俺から見たら、なつめは何も変わっちゃいないんだが。あいつ自身の中でまだ解決できていない。自分が何を信じているのか、これからどうあるのか。それを自分で気が付けるまで、もう少し待ってやりたい。


鬼の副長と言われてるわりに優しく笑っているその人に別れを告げ、ふすまに手をかけた時だった。


「ぎゃあぁあぁぁああああああ」


ふすまの音よりも随分と周りに響き渡った叫び声。これはもう、屯所中に響き渡っているのではないだろうか。


「土方さんっ、」
「ああ、失敗したやつらか、」
「副長!!」


そこへ音もなく斉藤が現れ、状況が説明される。そこへ山南さんも到着した。


「すでに総司が隊士を追っていますが、」
「わかった。原田、斉藤、お前らは失敗した隊士を探してくれ。まだそう遠くへは行ってないはずだ。山南さん、あんたは―――」
「隊士たちに悟られないよう、ごまかさなければなりませんね」
「……ああ、頼む」


浅葱色の隊服を羽織り屯所を出た。






君を信じよう



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