変わらぬものを、僕らは愛そう | ナノ
生き残っているのは、俺となつめぐらいだ。新八は口を開けたまま扉の近くで息絶え、平助の顔は真っ青である。千鶴は、戦況が激しくなる前にその場から逃がした。応援は―――まだ来ない。


『ね、やなやつでしょ、そーじ』
「お前、明日も任務なんだろ? あんまり遅くまで飲むと―――」
『うるさーーい』


なつめにかかれば、新八も平助もすぐにつぶれちまう。まあ、もともとあいつらは酒のペースが早いから、酒が弱いというわけでもないのだが。
なつめの酒豪っぷりにはまったく感心してしまう。


『ねえ、左之さん聞いてるのー』
「なんだよ、聞いてるだろ」
『もー、みんなどっか行っちゃったんだから、左之さん責任取ってよね、』
「わかったわかった」


どっか行っちゃった、と言っても、千鶴以外はそこらへんにのびてるんだけどな、もう見えていないのだろうか。久しぶりにここまで酔ったなつめを見ている。


『総司はなんであんなにガキなんですか?』


膨れてまた盃を傾ける。さすがに一気に飲み干すといったことはしなかったが、口調からしてもしぐさからしても、寝入ってしまうのは時間の問題だ。







任務から帰ってきて、土方さんのところに報告に行ったらい。そのときに、甘味処の知り合いからもらった饅頭を土方さんの部屋の前に置いたのだとか。そして報告を終え部屋を出ると、饅頭はなかった。犯人の姿はそこにはなかったらしいのだが、まあそんなことをするのは総司だけだということで、総司に抗議をしに行ったら、


「そんなにお饅頭が好きなんだ? ほかのお菓子が無くなったことには気が付かないのに?」
『ほかのお菓子って……もしかして、金平糖食べたの、』
「そう、僕だよ」


事の発端はなつめが新選組に入隊したときまでさかのぼらなければならないらしい。


「仮にも女の子なんだしさ、ふすまを開けたままにしておくのもどうかと思うんだけどなー」
『……何が言いたいの総司』
「別に? ただ、金平糖が無防備にも机の上に置いてあったから食べてあげただけだよ」
『勝手に人の部屋に、―――』
「金平糖も、放ったらかしにされたんじゃ可哀想じゃない?」


そこから、総司が今までになつめの菓子をいくつ食べたのかの話が続き、ぎゃーぎゃー騒いでいたところに土方さんが登場する。


「何騒いでんだ、てめーらっ」
「げ、土方さん」
『土方さん、総司が、―――』
「なんだか寒気が。僕もう寝なきゃ」


とりあえずなつめと総司の言い合いは終わったらしく、そこからは土方さんのお説教をなつめ一人で受けなければならなかった、というわけである。







とは、さっきまでなつめが延々としゃべっていた内容だ。ちなみに結構要点をまとめてある。実際はもう少し悪態やれ総司の似たような悪行やれが連なっていた。


「まあ、いーじゃねーか、菓子くらいまた買ってくれば、」
『よくない』


ダンと盃を床に打ち付けて、むすっと頬を膨らませる。


「なつめ、」


しかし、酔っているとはいえ、菓子のことでここまでご機嫌ななめになるのだろうか。総司のことだ、放置している菓子を食べられることなど今に始まったことじゃないのに。


「どうしたんだ、そんなしょーもないことで、―――」
『しょーもなくないよ、左之さんのばか』


いじけたまま部屋を飛び出していった。
ったく、しょうがない奴だ、と腰を上げて後を追いかけたら、なつめの部屋の少し手前で廊下に倒れていた。


「なつめ、寝るならちゃんと布団で寝ろ」
『わかってる』


起きる気配なし。
世話がやけるな、と彼女を抱えて部屋へ入った。









次の日、総司に会ったときに話を聞けば、どうやらなつめがいじけていたのは金平糖を食べられたことにあるらしい。
ったく、昔から総司となつめの喧嘩には苦労させられる。もはや兄弟喧嘩として認識している。


金平糖を一袋手に取り、昔のことを思い出していた。総司もなつめも金平糖が好きだからな。昔もよく金平糖を盗られただの食べられただのでなつめがいじけてたっけ。思わずクスリと笑えば、店番のばあさんに変な顔をされた。金を払って、屯所へ戻るために来た道を戻り始めた。


屯所に着き、なつめの部屋へ向かう途中、なにやらもめている声がした。もちろん、なつめと総司である。
はあ。
思わず漏れた溜息はしかし、なつめの言葉にかき消される。


『もーーー総司! いい加減にしてよ』
「うるさいな、そんな大声出さなくてもわかってるよ、」
『わかってない、絶対わかってない』


廊下の角を曲がれば、その声の主たちは二人して庭に出ていた。どうやら喧嘩ではないらしい。買ってきた金平糖をさっと隠して―――なつめの分しか買ってきていない―――声をかける。


「何やってんだ、二人とも」
「左之さん、おかえり」
『おかえりなさい』


よく見れば、総司が持っているのは竹馬である。しかし、竹馬と言っても、足を乗せる部分が壊れていて、どうやら総司が直しているようなのだ。


『子どもたちの竹馬に、総司がふざけて乗るもんだから壊れちゃったの。さっきから直させてるんだけど、全然進まないから、』
「しょうがないでしょ、竹馬があったら乗りたくなるのが人の常だよ」
『だからって、壊したらどうするの、遊べないじゃない』


ああ、また喧嘩が始まりそうである。なんでこんなに仲が悪いのか。……いや、仲が悪いわけではないか、悪巧みという点では、こいつらの右に出るものはいない。とくに土方さんに対して。


こいつらもまだまだガキだからな、なんて思いつつ二人に近づいた。竹馬修理、手伝ってやるか。



なつめと総司の事件簿、弐



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