変わらぬものを、僕らは愛そう | ナノ
「逃げなさい、早く」


もうどんな顔だったのか、どんな声だったのか、両親に関する記憶は随分とかすれてしまっていた。


『お母さん、私、』
「なつめ。あなただけでも生き延びて、あの方をお守りして、」


そのうち敵が近づいてきて、私は逃げなければならなくなった。暗いはずなのに、屋敷につけられた火のせいで、周囲は随分と明るい。


「いたぞ、生き残りだ、捕まえろ!!」


ひたすら走った。毎日毎日走り続け、とうとうある日、力尽きて倒れてしまった。そして、そんな私を拾ってくれたのは、一族を滅ぼした「人間」だった。











「久しぶりだな、雪村なつめ」
『……風間さん、その名前は―――』
「ああ、今は二宮なつめだったな」


つまらなそうにそう言い、一歩一歩近づいてくるその人。池田屋の近くまでみんなの様子を見に行ったときのこと。その池田屋からでてきたのは、風間千景、天霧九寿―――薩摩藩に与している西の鬼の一族だった。


「確か幕府の犬になっていると聞いたが?」
『そうですね、幕府の犬として生活していました』
「……ふん。あの小娘、雪村の末裔か?」
『、』
「図星だな」


たしか、と昔の記憶を探るように考えていた風間だったが、「雪村……千鶴だったな」と少し口角を上げた。


『千鶴ちゃんに何か用でもあるんですか?』


男たちを殺害した刀はまだ右手に握っている。風間に切りかかるために再びそれを握りなおすと、「やめなさい」と天霧。


「われわれと戦って、君に勝目はない」
『やってみないとわからないんじゃないですか?』
「純血でもない貴様が、この俺に勝てるとでも思っているのか?」


風間に返事をしないまま、いつもは抑えている力を一気に解放した。髪は白く染まり、瞳は黄色に輝く。風間の行動一つ一つがはっきりと見えた。


『千鶴ちゃんに、―――』
「っ、」


しかし、刀と刀が交わることはなかった。天霧が間に入って風間をなだめたことによる。


「せっかく生き残った鬼同士、血を流して戦うのはやめにしましょう、二宮なつめ」


結局、千鶴ちゃんをどうするつもりなのか、聞けずじまいで終わってしまった。「貴様も鬼であるのなら、身の振り方を考えるんだな」と言い残し、風間も天霧も消えてしまった。


雪村家本家の血筋が千鶴ちゃんで、私は雪村家の宗家にあたる、しかも純血の鬼である千鶴ちゃんに比べ、私は人間の血が混じった混血の鬼だ。つまり、私が生まれた意味は千鶴ちゃんにあるのだ。千鶴ちゃんを守るために、千鶴ちゃんを守るように、小さなころから訓練され、生きてきた。


『……千鶴ちゃんをどうかするというのなら、私が命がけで守る、』


彼女の敵は幕府だけだと思っていた。幕命から逃げた綱道さんの身内だとしれれば、千鶴ちゃんの安全が危ぶまれる。しかし、敵はそれだけでなく、本来ならば敵対するような関係性ではないはずの風間にも狙われているのだ。


さっきまで聞こえていた戦いの音も、いつからかやんだ。そろそろ屯所に帰らなければ。


東の空が、少しずつ白み始めていた。





生き残った2人



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