信頼の隣に | ナノ
気が付くと、俺は暗い闇の中をさまよっていた。光はどこにも見えないのに、しかし、どこからか懐かしい風が吹いた。







ソラトは、俺の近所に住んでいた。アカデミーに通う前は何度も遊んだし、下忍になってからもたまに会えばあれこれと話をした仲だった。そんな付き合いのなかで、ある日彼は言ったのだ。それは、丁度、彼が死ぬ3日くらい前だっただろうか。


「ハルってさ、消えちまいそうなんだ。自分のことはあんまり話そうとしないし、なかなか笑ってくれないから、俺、嫌われてるんじゃないかって思ってたんだけど、」
「けど?」
「違った。…違うんだ。ハルは、本当は、仲間思いのいい奴なんだ」


そこまで言うと、彼は照れたように頬を赤くした。へへ、と笑うもんだから、ソラトがそのハルと言う子に好意を寄せていると容易に想像できた。


「…今度、任務に出る」


しかし、急に、彼のトーンが下がる。どうしたのだろうか、とその顔を見れば、彼は遠くを見つめるように話していた。


「もし、その時―-。いや、もし、ハルが辛そうにしてたら、声をかけてくれないかな?」
「俺が?」
「…一言だけでもいいんだ、…挨拶とか、」


あのな、とため息をつけば、彼は両手を合わせて顔の前に出した。つまり、お願いします、のポーズをとった。


「…はあ。で、挨拶したとして、そのあと俺はどうするんだよ」


顔も見たことねーんだぞ。気まずくなるに決まってるだろ、と。


「んー。…あ、一楽行けば喜ぶと思う」
「一楽?」
「うん、好きみたいだよ、ラーメン」


俺も一楽のラーメン好きだから、気が合うんだよね、とにんまり笑うソラトに、俺はニヤリとするのをこらえられなかった。


「じゃ、よろしく」


それが彼との最後の会話。ハル一色の会話。
彼はどうやら、自分が死ぬかもしれない、と感じていたのかもしれない。あれだ、死ぬ前にお告げが来るとか、夢に見るとか、なんとなくわかるとか、そういう類なのだろう。









最初に彼女を見たとき、ひとりたたずむ彼女を見て、ソラトの言葉を思いだしていた。声をかければ、泣き出しそうな声で答えたっけ。それでもその日は黙ってどこかに行ったから、追いかけることはしなかった。


次の日、同じところに彼女はまた現れた。俺は家の部屋の窓から彼女を見つけた。雨が降っているのに傘もさしていない。あれじゃあ風邪ひくだろう、と椅子から立ち上がったのはいいが、あいにく自分の傘はこの前誰かに貸していた。どうしたものか、ともう一度彼女を見れば、消え入りそうだった。そう、いつかソラトが言ったようだった。
そんな彼女をほおっておけなくて、俺も雨の中を傘もささずに歩いた。









その後、彼女と会うこともなく、しばらくは任務が続いた。たまには違うメンバーで任務を行うこともあったのだが、ほとんどはガイやエビスとの三人一組。明日も朝から任務だな、と考えながら、任務帰りで公園の近くを歩いていたときのこと。再び彼女に会った。その日も彼女は一人で、どこか頼りなかった。


「ガイ、エビス、先に行っててくれ」


口が自然と動いていたことに、俺も内心驚いた。忘れ物でもしたのか、とガイが言っていたが、それになんと答えたかは定かではない。何とか言って、適当にあしらったはずだ。


「よお」


とりあえず声をかけた。返事はなかった。


どうしたものかと考えたのだが、どーにかなるかな、と彼女の隣に腰かける。そこは俺一人が入るスペースは十分にあったのに、彼女は俺が座ると、気持ち反対側にずれた。


『…この前は、ありがとうございました』


そして突然彼女はきりだした。一体何に感謝の言葉を述べているのか、と考えること数秒。いや、数十秒だったか?まあ、とにかく、その言葉の意味を理解したときには、既に彼女は次の言葉を切りだしていて。
改まって、『聞いてもいいですか?』とかなんとか言うから、何を話すのかと思えば、


『…あなたの名前』


は?と内心ではそんなことを思っていたのだが、彼女の顔は真剣なままで、後から後から笑いが込み上げてきた。あの日ほど笑った日は、今までの中で数えるくらいしかないだろう、たぶん。
そのあと、『なんで私の名前を知ってたんですか』と聞かれたが、その返事に少し嘘が混じっていたことを、彼女は知らない。いや、実際は嘘と言うほどでもないのだが。


ソラトが言ってたからお前の名前を知っていたのだ、とは言えなかった。


そのあと一楽ラーメンに行ったのも、ソラトの言葉に従っただけなのだ。会話に詰まったから、一楽を目指した。言うなれば、彼の遺言じみたことを実行したまで。
ああ、そう言えば、ハルが一楽を好きなのはソラトが好きだったからなんじゃないか、と思い当ったのもそのときだったけな。










はじめは大して、彼女に特別な感情を抱いていたわけではなかった。その後もたまに会話をするくらいで、彼女との関係がどうこうなるとは思ってもみなかったのだ。転機が訪れたのは、任務で一緒になった日だ。


「君たちに、Aランクをやってもらいたい」


四代目の言葉だった。










上忍のカカシ率いる、四人一組。
カカシ、ガイ、それからハル
笑わない君の、笑った顔が見たかった



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