『おいしー』
思わず大きな声が出る、お店の人も笑っていたのだが、目の前の阿近さんも少しだけ笑った気がした。
「よかったな、」
『……阿近さん、甘いの苦手ですか?』
コーヒーを飲みながら、頼んだチーズケーキには手を付けず。私が一人でケーキを食べて満足している構図だ。ちなみに生チョコケーキ。
「あんまりおいしそうに食べるから、ついな」
つい、なんだろう。
そう疑問に思いつつも、またケーキに手が伸びる。久々の高級デザート、手が止まらない。
「こっちも食べてみるか?」
太るから、とデザートはひとつだけにして、その一つも随分と迷った末に決めたものだった。今、すごくおいしい高級デザートの味がもう一つ楽しめる、という誘惑に駆られている。
『う……でも、ふ、ふと、る、』
「こうすれば一つ分になるだろ、」
あ、と声を上げる間もなく生チョコケーキを半分取られた。
「ほら、こっちも半分やるから、そういじけるな」
『い、いじけてないです、ただびっくりしただけで。……じゃあ私もチーズケーキいただきます』
負けるまい、と勢いよく阿近さんの皿からチーズケーキをいただく。そのまま一口、口に入れると、口の中でとろけて消えた。
『んー、おいしー』
今度はさっきよりも笑った。
ちらちら盗み見ている自分に少し苦笑。
阿近さんは私のことなんて見てくれないというのに。彼が見ているのはいつもどこか違う場所だというのに。
「あれから、体調はどうだ?」
たまに阿近さんは心配性だと思う。
『はい、大丈夫です。阿近さんの治療のおかげですね』
「ほんとに、無理はしてないんだな」
『大丈夫ですよ、もー阿近さん心配しすぎです』
「……調子が悪いときは、技局まで来れば休ませてやるから、無理だけはするな」
ああ、もう。こんな風に優しくするから好きになっちゃうんですよ。なんて、口には出さないけれど。
『あーもう、阿近さん食べないなら私食べちゃいますねー』
恥ずかしさを隠すために、阿近さんがお皿に残していたケーキをほおばる。ちなみにチーズケーキだ。
「あ、こら」
『もう食べちゃいましたよーだ』
阿近さんに仕返しされる前に、自分のケーキの残りに手を伸ばす。
「ゆっくり食べろ、のどにつまらせるぞ」
『でも、』
「俺は誰かさんほどガキじゃねーからな、人のケーキを取って食ったりしねーよ」
『……』
くそう。なんだか悔しい。
「ほら、食い終わったら帰るぞー。午後の鐘が鳴る」
『はーい』
お金は当然のように阿近さんに払われた。私も出すといったのに。せっかくお給料もらっているというのに。
「ふてくされるなよ、こういうところで金を払うのは上司だろ。今年入ったばかりの新入隊士に金を払わせるほど、十二番隊の給料は少なくねーよ」
デートみたいだな、なんて思っていたところに、はるか上空から大きな岩が落ちてきたようだ、ガツンと。
『上司と部下、デートじゃない、上司と部下』
何やってるんだ、と阿近さんが振り返った。ちょっと落ち込んだだけですぐにおいて行かれてしまう。やっぱり、阿近さんって背が高いんだなー。
隊舎までの道のりを、来た時と同じように2人で歩いた。
上司と部下のデートのような昼さがり
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