十二番隊恋愛闘争 | ナノ
救護に特化した存在として四番隊が知られるが、各隊舎に救護施設がないわけではない。
ここ、十二番隊には医務室が存在し、その役割は十二番隊の医療作業を得意とする隊士が担っている。
ちなみに、四番隊、十二番隊以外の隊においては、医務室に四番隊の隊士が派遣されるという形をとっているらしい。


十二番隊の医療という役割はあまり表立ってはいないが、臓器回復などの治療のほとんどは十二番隊が担っている。
さらに、四番隊だけでは治療が追い付かない事態に陥ったときも十二番隊が救護に回る場合もある。しかしこれまでにそんな事態に陥ったことはないらしい。それほどに四番隊が優秀だというべきなのかもしれない。


何が言いたいのか。つまり、私の入隊当初から苦手としていた弓月さんが十二番隊の救護担当だったということである。
1度だけ医務室でその人のお世話になって以来、医務室を避け続けていた私だったが、入隊から半年、医務室まで連行されるという事態に陥ったのだ。









それは、尸魂界でのできごとである。任務中、同僚との接触により、誤って左肩をざっくり切ってしまった。つまり、斬魄刀で肩を切ってしまったのだ。


「長瀬!? ごめんっ、」
『大丈夫、傷浅いし、すぐ―――』
「るい、それのどこが浅い傷なの? すぐ医務室行ね」
『え、先輩、あの、』


制止の声は先輩の耳には届いていないらしく、たぶん席官なのだろうが名前はしらない先輩隊士とともに、先に隊舎に帰ることになった。


「ちょっと見せて?」


その先輩隊士が慣れた手つきで血止めをしてくれる。どうやらこの人も医務室担当らしい。


『ありがとうございます』
「応急手当だけだから、すぐに帰らなきゃいけないよ。……歩ける?」
『はい、大丈夫です。……四番隊に向かった方がいいですか?』


オブラートに包んだせいか、先輩隊士はあっさり首を横に振った。


「ここからなら十二番隊の方が近い。医務室に向かおう」


それもそうか。弓月さん、女子から人気高いし、苦手な方がマイナーだもんな。
今日の担当が弓月さんでないことを願うしかない、と、先輩隊士の後ろから十二番隊隊舎へとむかった。









『あの、たいしたことないので、治療はしなくても―――』
「ダメ、血が流れすぎてる。動かないで、治療するから」


十二番隊隊舎、医務室。
願いはかなうことなく、医務室には弓月さんが待ち構えていた。


『ほんとに、大丈夫です、』


すきをみて、半ば強引に寝かせられた医務室のベッドから起き上がるが、すぐに視界が揺れて床に落ちそうになる。現場から付き添ってくれた先輩隊士が支えてくれ、弓月さんによってまたベッドに横たえられる。


「るいちゃん、それは大丈夫とは言わないんだよ、」


弓月さんの手が傷口付近に置かれた。
もうずっと頭の中がズキズキしていて、耳鳴りもしている。体中が「逃げろ」と警告しているようだった。
しかし貧血のせいなのか、何のせいなのか、体がいうことを聞かない。力が入らなかった。


「るいちゃん、深呼吸して」


―――こわい


ああ、この人へ抱いていたのは恐怖だったのだ。
苦手意識でも嫌悪でもない、恐怖。


体中に警鐘が鳴り響いているようだった。


そして、左肩から、弓月さんの霊圧を感じ―――


『っ、や、ぁあぁああああああ』


一瞬だった。
無我夢中で―――本能に動かされるままに―――治療の手を振り払い、寝台から逃げた。


左肩が痛い。
寝台から落ちた振動で全身も痛い。
しかし、そんな痛みよりも。


『っかは、は、は、っ、』


苦しい。


だんだんと頭の中が真っ白になっていく。苦しい。苦しい。苦しい。
もういいや、と目を閉じた。


相変わらず全身が痛くて苦しかった。
あなたはどこの誰ですか



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