フォルスとペリエと、他愛もない話をしながら、セイヴァールの街を歩いていた時だった。
「きゃああああ」
そこらへんの通りに響き渡る悲鳴。事件だ。
「行くよ、ペリエ」
「わかった」
私には目配せで、行くよ、と。
私も目でうなずき、現場へと向かう。
「何だお前は」
騒ぎの真ん中では、悪魔が暴れているようだった。
近くに小さな子供がいる。
「はいはい、ここで喧嘩はやめようね、周りの人もいるから、つづ―――」
「お兄ちゃんっ」
『っ、』
ペリエが叫ぶのと私が走り出したのはほぼ同時だった。
ナイフを持った男が、子供に全力疾走してきたのだ。間に合うか、間に合わないか。いや、間に合わせる―――
「カヤ、」
子供に届いて、抱えた。しかし次に来るのは刺される衝撃だ、と身を固くしたが……衝撃がいつになってもこなくて。
「ばーか、なんかあったら呼べつったろ、」
『……キタロウ』
見ると、キタロウがナイフを持った腕をつかんでいて、つかまれた男はびくともしていない。
「キタロウ、よかった、刺されるかと思った」
「ペリエも、」
完全に悪魔の方にしか目が行ってなかった。犯罪を起こすのはいつも悪魔の方が多いから。……自分の目に偏見が混ざっていることが悔しかった。
『ごめんね、こわかったね』
抱えていた子供を近くにいた親へ預け、その間にキタロウはナイフ男を倒し、フォルスとペリエは手短に悪魔に話を聞いている。
『早かったね、キタロウ』
「まあな。向こう、ついに女がたくさんおしかけてきたもんで」
『逃げてきたのね、』
「おう」
キタロウの立つ後ろに立った。久々のような気がした。シルターンでは、しばらく戦闘任務はなかった。
「二人とも、要捕縛者は6人、それから、」
「機械相手か?」
「正解、気を付けて」
「カヤ、腕、鈍ってないだろうな」
『そっくりそのままお返しするよ、キタロウ』
「へ、バカが。こいつらはフォルスたちに任せとけ、むこうに飛んでけば勝手にやっておくだろう」
『はいはい、』
「はいはい、は僕のセリフだよ。二人とも気を付けてね、ペリエ行くよ」
「うむ」
結界で足場をつくり、機械が暴れる方へと向かう。
たぶん、ロレイラルの住人だろう。
「気、ぬくな、カヤ」
『うん』
彼の―――キタロウの考えていることが手に取るようにわかった。次にどこに結界を張って、彼はどこから攻撃して、私が何をすればいいのか。
私とキタロウと、戦闘における相性はとびぬけていた。
キィン、キィン、
金属と金属とが重なりあう音。
大きなロレイラルの住人と戦うには、キタロウの作る結界を飛び回りながら応戦するしかない。
「ち、手ごわいな」
『キタロウ、』
「しゃーねーな。大丈夫か?」
『うん、行ける』
「久々の本気モード、見せてやるか」
キタロウが戦線から離脱した。
その間にも攻撃は続き、しかしすぐに私も行動に出る。
響命覚醒術
力がみなぎるように、体の周りを黄色い光がつつんだ。
「全開で行くぞ、カヤー」
『準備おーけーだよ、』
この体制が私とキタロウとのベストだ。
キタロウが足場をつくり、私が敵を倒す。
私の動きと敵の動きを見て、キタロウが足場をつくるのだ。
二人で攻撃していたときよりも攻撃のスピードも結界の威力もあがる。
攻撃をしながら、キタロウの結界を踏みしめるたびに、ひとつひとつ思いが伝わってきた。
攻撃をうけても壊れない結界を、攻撃をうけない場所に足場を―――今カヤに必要な足場はどこだ、
戦闘中だというのに、泣きそうになった。
響命石の力が弱まっていたのは、私のキタロウに対する思いが足りなかったからだった。キタロウは昔と何も変わらないんだ、
変わってしまったのは、私だった。
『っ』
「いけ、カヤ」
ちらりと下を見ると、なぜだか人が集まっていて、そんな中でキタロウの声ははっきりと聞こえた。
召喚師、空を飛ぶ
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