幸せになろうよ | ナノ
朝起きると、いい匂いが部屋中に立ち込めていた。


『おはよう、アベルト』
「起きたか?」


昨日の夜は、何度も目が覚めた。そのたびにアベルトがそばで声をかけてくれて、


『ごめんね、寝れてないよね、』


ご飯作るよ、とキッチンに立つと、もうできるからと追い出された。仕方ないから着替えやれ何やれすましてくると、簡単な朝ごはんが出来上がっていた。冷蔵庫には何も入っていなかった―――電源すら入っていなかった―――から、買い物もしてきてくれたのだろう。


「今日は仕事なんだ、もう一人でも大丈夫か?」


ご飯を食べながらのアベルトの問いに、黙ってうなずく。


「カヤは今日休みだろう? 仕事終わったらこっち来るから、」
『うん、晩御飯作って待ってる』


アベルトが警察騎士団の寮暮らしであるため、二人で過ごすときはたいていこの部屋だった。そのため、アベルトももうだいぶこの部屋を使いこなしていて、今朝のようにご飯を作ってくれることも少なくない。


『今日はお休みだけど、一応異世界調停機構に顔出してくる』
「荷物もあるしな、」
『ああ、そうだった、忘れるところだった』


まったく、しっかりしてくれよ、とは向かいに座るアベルトの言葉。


「二日酔いじゃなけりゃフォルスもいるだろし、会ってやれば喜ぶだろうよ」
『うん、そうだね。ペリエにも久しぶりに会うなー。……あ、』
「ん?」
『お土産、買うの忘れた』








『あ、フォルス』
「カヤ!? いつ帰ったの?」


異世界調停機構では、管理官さんと話した後、案の定フォルスと会った。ペリエも一緒で―――この二人が一緒にいるのはいつものこと―――、周りにはほかにも何人かの召喚師がいた。


『昨日帰ってきてね、あ、アベルトにつぶされたんでしょう?』
「まったく、君たちにはかなわないなあ。キタロウは?」
『うん、あとから帰ってくる。冥土のことがあって、私だけ先に帰らせてくれたんだよね』


そこまで話したところで、なにやら疑わしげな顔と目が合う。響界学園の制服を着て、肩にはトビウサギを乗せている。


「ああ、その冥土を倒した時に力を借りてたんだ、」


とこれは、その疑わしげな顔をしている女の子を含め、その場にいた召喚師たちの紹介である。


「ほら、昨日飲み会で話してた―――ルエリィは知らないよね、アベルトの大切な人で、僕の響界学園の同期のカヤ」
『こんにちは、』


とりあえず笑ってみる。自己紹介はフォルスがやってしまったし、残された会話手段は挨拶くらいしかない。


「なんだ、私はてっきり先輩の彼女さんかと思ってしまいました」
「違う違う、けどアベルトも君の先輩だよね、」
「いーんです、それはそれ、これはこれです」


ルエリィは今は調停召喚師の見習いなんだ、とフォルスが教えてくれる。フォルスがお世話係を任されているのだろう。


「あー、あんたが噂の子かい?」


後ろに悪魔が立っていることで、容姿の幼さと魔力との差にうなずける。シーダというらしい、私も名前くらいは聞いたことがあった。結構な強さの召喚師だ。


『あー、今日はキタロウいなくて、』
「キタロウ?」
「ああ、カヤの響友の名前だよ。まだシルターンにいるんだって」
『フォルス、任務中だよね、あんまり邪魔しちゃ悪いから私帰るね』


逃げるようにその場を抜け出した。
異世界調停機構の召喚師になったころからずっとだった。


噂の召喚師―――響友の力で召喚師に慣れた無能な召喚師。
そりゃあ、キタロウがいなかったら召喚師にはなれなかった。キタロウには感謝してもしきれない。けど、


『私だって努力してるんだけどなあ』


キタロウと私と、力を合わせているはずなのに。
キタロウと私は釣り合っていない、キタロウの力に私の力は足りない。


いくら頑張っても、世間の目はそんなものだった。
シルターンに呼ばれたのも、キタロウのおかげ、私はただのおまけ。


そこまで言われるともう、自分の価値を認めてくれる人を探す方がばかげているように思えて。そういうばかげたことはもうやめた。
信じることは、もう長くしていない。






響友の影



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