幸せになろうよ | ナノ
ギフト・ブラッテルン、エルスト・ブラッテルンをはじめとする冥土召喚術の一件がひと段落し、その主要人物で打ち上げが行われていた。フォルスの呼びかけということで、誘われたやつは全員参加している。あいかわらずの慕われようだなあ、と感心しながら盃をかたむけた。


「ほらほらのめのめ〜」


そのフォルスはみんなに気に入られてさっきから飲まされてばかりだ。
あいつは人並み程度にしかのめないからな、ほどほどのところで止めにはいらねーと、幹事がつぶれかねないな、などと考えていると、


「隣、いいかしら?」


イエンファである。
彼女の極秘任務も無事に終わり、あとは櫻花部隊に帰るだけとなった。今日のこの飲み会が終わればまた通常任務に戻るそうだ。フォルスが随分と寂しそうな顔をしていたっけ。


「はいよ、おつかれさん」


彼女のあいていたグラスに酒を注ぐと、ありがとう、とニコリと笑った。


「……」
「あらなに? 変なものでもついてるかしら?」
「え、いや、別に何も、」


その人が笑うところを初めてみたような気がする。イエンファも笑うことがあるんだなーと少し驚いた。まあ今日は寄っているせいもあるのだろうが。


「あの人、大丈夫? もうだいぶ酔っているけれど、」
「ん、そろそろ危ないだろうな、止めにはいらねーと」


あいつ、飲めって言われたら断れねー性分でさ、と立ち上がる。


「フォルス、そろそろこっちで飲まねーか、おれも話したいことがある」


そういうと、何の疑いもなく席を立つ。しかしすでに足にきているらしく、多少ふらついている。
ったく、酒に関しては自制する力がまったくないなこいつには。改めて再確認。
フォルスをなくした召喚師勢は、しかし残すところソウケンとシーダだけとなっていた。響友たちは眠っているか、先に帰ってしまったか、参加していないか。カリスはフォルスがいなくなったのを境に眠りについた。


「アベルト、イエンファもおつかれさま〜」


いつも一緒の響友は前述したようにすでに眠っている。酒には強くないようである。


「フォルス、あなたもう少し自分の酒量をわきまえなさい」
「え?」
「今のこいつに何を言っても無駄だよ。明日二日酔いにでもなったら聞く耳ももつんだろうが、」
「……二日酔い、しないのね?」
「ああ、おそろしく消化がはやいんだよこいつは」


フォルスをよんだものの、すでに会話には入っていない。


「てか、話ってなに、アベルト。もしかして、カヤのこと?」


ぶ、と含んだ酒をおもいきり吐き出しそうになる。もちろんそれはなんとか食い止めたが。イエンファがおもしろそうにこちらを見る。


「誰、カヤって。初めて聞いたんだけど」
「ああ、アベルトの彼女でね、僕とアベルトの同級生なんだ」
「へえ、詳しく聞いてみたいわね、」
「バカ、やめろフォルス。お前たちわりーぞ」


そんな抵抗で、酔ったフォルスと特務騎士の肩書きを持つしかも女をごまかせるわけもなく。フォルスがベラベラと話し始めた。


カヤはね、頭もよくて体力もあって、
召喚術も得意だったけど、近距離戦のほうが得意だったんだ
アベルトと付き合いだしたのはいつだったかな、セイヴァール響界学園を卒業するころだったかなー
最近は任務でずっと会ってないよ、
彼女、シルターンの子が響友でね、シルターンが専門なんだ
向こうの人に気に入られて、結構長い間向こうで任務してる
あ、


「もしかして、別れちゃったあと?」


そこまで長々と自分のことのように話した挙句に、何の悪びれた様子もなくその一言である。さすが、酔ったフォルスと言ったところか。


「なになに、その話初耳だな、アタシにも聞かせなよ」


そこに生き残った召喚師も加わり、カヤの素性はほぼすべてばれた。
別に隠していたわけでもないが、彼女が召喚師で、こいつらも召喚師。どこでどう話が進んでいくのか。
しかもカヤはカヤで目立つ響友を連れているしなあ。


「へえ、あんたも隅におけねーな」
「隅においててくれよめんどくさいから」
「それで、そのカヤってやつ、お前しってるか、ソウケン」


話は完全にシーダ進行役である。


「……そうだな、響友の話しか聞かないが、」
「響友?」
「本人とは俺も顔をあわせたことはない。響友の方はシルターンで有名な一族の双子の一人だ」
「へえ、そりゃまた、」
「うん、そのせいでいろいろひどかった時期もあったらしいんだけどね」


ソウケンが聞く噂にも、カヤへの悪評が混ざっている、というよりは悪評の方が多いはずだがそれを一言も発さないあたり彼のまじめさがうかがえる。


「でも、アベルトの、」
「あーもうお前は、人がせっかくつぶさないように配慮してやったものを。もういい、呑め。そしてつぶれろ」


有無を言わさず飲ませて、前述したとおりフォルスはつぶれ、うちあげも終わりを迎えた。


「チェッ、ここで警察騎士の弱みでも握っておけば後々有利に使えたのにな」


こいつ何変なこと考えてたんだよ、とは口には出さず。
向こうではソウケンがカリスに肩を貸している。響友は―――便利な世界だな。


「フォルス、帰るぞ」


最終的につぶしたのは自分だということは自覚している、反省の意もこめて家まで送り届けなければならない。


「あなたのそういうところ、まじめよね」
「ん?」


気づくとイエンファも隣にいた。そういえばフォルスとイエンファと家が近かったなと思い出す。


「はあ、この子はいつまでたっても甘やかされそうね、あなたに」
「ははは、そうだろうよ」
「もう少し厳しくしてもいいんじゃないかとたまに思うのだけど」
「実を言うと、こいつといると、これがあたりまえになっちまうんだよな、なぜか。だからもうあきらめてるかな」


彼女もそれ以上の言及はしない。おれもそれ以上は言わなかった。


「じゃ、気をつけて。明日は任務だから見送りはできねーが、またなんかあったらよろしく頼む」


櫻花隊なんて会えることの方が珍しいというのに。なぜだかイエンファとはまた会う機会がある気がする。それは彼女も同じらしく、そうね、と笑った。まだ酔いは冷めていないらしい。


「フォルス、着いたぞ。鍵どこだ」


さて、この酔っ払いをどうするかな。







終わりとはじまり



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