断じて行えば鬼神も之を避く | ナノ
12親善試合を肴に



「三木の顔見たか!? すげー悔しそうだったな」

とは新八さんで、酒が入りいつもに増して声が大きい。すこぶる上機嫌である。

「お前がいばるなよ、新八。勝ったのはなつめの手柄だろ」

しかし左之さんも嬉しそうだ。

三木との試合は、私の圧勝、と称されているようだ。
真剣勝負を持ちかけられ、三木が太刀を抜いたのに対し、私は脇差を抜いた。力で勝る三木に対抗するには、速さで挑むしかない。そうなれば、長くて重い太刀は邪魔になるだけ。

抜いた脇差で、三木の攻撃をすべて受け流し、さらに力任せに刀を振り上げた三木の太刀筋をかわして、後ろから刀を突き付けた―――彼ののど元へ。

そうしてようやく私と三木との試合が終わる。1本1本は比較的短時間で勝負がついたが、なんだか長い試合に感じた。

それが今日の話で、その足で祝杯を挙げに来たというわけだ。

『でも、伊東さんにしてやられた感はあるよね』

素直に喜べないのは、三木が悔しそうな表情を浮かべていたのに対し、腹黒そうな計算高い笑みで私に拍手を送った伊東さんを見たからだ。

少なくとも、私の戦い方は伊東さん一派に散々見られ、手の内をさらしたことになる。まあ、戦い方はいくらでもあるから、どうとでもなるだろうけど。
ただ、何かあったときのために、爪は極力隠していたいというのが本音だ。

「細かいことは気にせず、今日は飲め飲め! なんつったって、左之のおごりだからな」
『あれ、新八さんのおごりじゃないんだ?』
「さっきも言っただろ、細かいことは気にするな」

ぐいぐいと酒を飲む新八さんに、「何が細かいことだ?」と左之さん。

「いいじゃねえか、かわいい部下が厄介な敵を負かせたんだ。酒の一杯でもおごってやれよ」
「そりゃあ、部下におごってやるのは当たり前だろ。でもお前におごる筋合いはねーな」
「そんなこと言うなよ、左之」

新八さんは、酒飲みに行き過ぎてお金を使いすぎたらしい。それでも祝杯をあげるとのことで来てくれている。
冗談を言い合う二人に、私もニヤニヤしながら打ち明ける。

『実は、さっき土方さんからお小遣いもらってきました〜』

お金を見せると、「何!?」と新八さん。

「どうして土方さんから?」
『だって、今日の試合、明らかにおかしかったでしょ。私と三木さんの組み合わせなんて』
「確かに、そういやあ、三木のヤツ、副長助勤になるんだったな」
『それを土方さんに抗議して、その実力差で勝ってやったんだからご褒美くださいって言ったらくれた』

そこまで伝えると、左之さんと新八さんが互いに顔を見合わせ、すぐに大笑いが巻き起こる。

「鬼の副長相手にそこまで言えるなんて、やるじゃねーか」
「なつめ様、今日は有難くおこぼれに預かります」
『苦しゅうない』

そんな軽口をたたき合いながら。
夜はあっという間に更けていった。





帰り道、3人で歩いていたところに、左之さんが唐突に始める。
「そういや、さっきの話だが」

さっきの話とはなんだろう、と考えながら続きを聞いていると。

「三木との実力差っていうが、俺はなつめも組長と同じくらいの実力があると思ってるぜ」

どうやら酔っぱらっているらしい。始まったのは褒め殺しというやつだ。

『左之さん酔ってる』

褒められるのは嬉しいのだが、新八さんも聞いているし左之さん酔っているし、なんだか恥ずかしいから辞めてほしい。とは言えず、左之さんがそのまま続ける。

「他の流派の奴らが何を言ったって、戦では生き残った方が勝ちなんだ。―――なつめは強い」

そしていつもは普通にできている力加減が、今日は酔っているせいか、うまくいかなかったらしい。バンバン、と少し吹き飛ばされそうなくらい、強めに背中を叩かれた。

『痛っ、』
「おっと、悪ぃ」
「どうした、左之。酔っぱらってんのか?」
「かわいい部下が白星を上げたんだ。酔っ払いもするだろ」

照れる様子もなくそう続けるので、やはり私が一人恥ずかしい。

『わかったわかった、喜んでくれてありがとう、組長さん』

このまま放っておくと、いつまでも恥ずかしいことを言い出しそうなので、今日は星がきれいだね、と話の方向転換を図る。

まあでも。部下の手柄を自分事のように喜んでくれる上司ってのは悪くない。左之さんが喜んでくれるなら、稽古試合でもまた頑張ろうかな、と曲がりなりにも感じるのであった。







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