「はじめ君」
顔を上げたはじめ君と目が合う。
「これ何て言うか知ってる?」
「招き猫に似ているから買い上げた俺に、聞く事では無いだろう。」
目線を僕から反らす。
「あ、ごめん。」
「で、何なんだ。」
「張子犬って言うだって。」
「はりこいぬ?」
「うん、上の姉さんに子供が生まれてね。この子が赤ん坊の近くに置いてあったんだ。」
はじめ君は根付けに目を落とす。
「無病息災や子供を守るお守りみたいなのって姉さんは言ってた。」
「そうなのか。」
「うん。」
はじめ君はまだ納得仕切れてない顔だった。
「じゃさ。大人になってもこれ返して欲しいと思うなら、返してあげる。」
はじめ君はじっと僕を見てた。
「その代わり、これに代わるものを頂戴。」
はじめ君はため息をついた。
「どうしても返してはくれないのだな。」
「だって僕のためにはじめ君が考えてくれたんでしょ?」
「そうだが。どうせなら俺ではなくて、その…犬が好きな女子(おなご)にねだれば良いではないか。」
はじめ君は目を反らして呟く様に言葉を口にした。
「はじめ君のが良いだよ。はじめ君のが」
僕は笑って答えると
「あんたは意地悪だ。」
はじめ君は拗ねた口調でそう言葉にした。
張子犬の根付けを眺めながら
「一君、君は何処で何をしているのかな?」
溜息のようにその言葉を口にした。
1
0
99394