魔核(コア)奪還編

58


「それって、どんな?」
「アイフリードの隠したお宝なのじゃ」
「ア、アイフリードッ……!」
「アイフリードってあの、大海賊の?」

絶句するカロルとエステルの方を見て、なんの事かさっぱりわからないハルカは首を傾げる。どうやらユーリも知らないらしく、カロルに「有名人なのか?」なんて訊いていた。するとカロルは狼狽えながら口を開く。

「し、知らないの?海を荒らし回った大悪党だよ」
「……海精(セイレーン)の牙という名の海賊ギルドを率いた首領(ボス)。移民船を襲い、数百人という民間人を殺害した海賊として騎士団に追われている。その消息は不明だが、既に死んでいるのではと言われている、です」
「ブラックホープ号事件って呼ばれてるんだけど、もう酷かったんだって」
「……ま、そう言われとるの」

悲しげに呟かれたパティの声に、エステルは首を捻る。けれど彼女はなんでもないと気丈に笑った。ハルカはその話題に、パティにとっての傷となる何かがあると察する。それはアイナも同じだったのだろう。パティの頭を撫でていた。

「でも、あんたそんなもん手に入れて、どうすんのよ」
「決まってるのじゃ。大海賊の宝を手にして、冒険家として名を上げるのじゃ」

リタの問いに胸を張って答えたパティに、ユーリからまた問いかけられる。

「危ない目に遭っても、か?」
「それが冒険家という生き方なのじゃ」
「ふっ……面白いじゃねぇか」
「面白いか?どうじゃ、うちと一緒にやらんか」
「性には合いそうだけど、遠慮しとくわ。そんなに暇じゃないんでな」
「ユーリは冷たいのじゃ。サメ肌より冷たいのじゃ。でも、そこが素敵なのじゃ」
「素敵か……?」

本気で首を捻るリタ。その隣でカロルが「もしかして」と言った。

「パティってユーリの事……」
「ひと目惚れなのじゃ」

ユーリにウインクを送りながら言ったパティだったが、当のユーリは重い息を吐き出している。面倒臭がっている様子のユーリが面白いのだろう、アイナは隣でクスクス笑っていた。するとユーリが彼女の細い肩を抱いてニヤリと口角を上げる。

「残念だったな。オレはもう嫁さんが居るんだ」

アイナが肩に回るユーリの手の甲を抓って抜け出しパティに「まだ違うよ」と笑いかけるのは、それから五秒後の事だった。



扉を開けた途端、広い屋敷の中でもひと際大きな広間に出た。薄暗い部屋は吹き抜けになっており、ユーリ達の目の前は渡り廊下みたいで覗き込めば結構高い場所に位置している。そんな場所の中央に、巨大な魔導器(ブラスティア)はあった。リタが真っ先にそこへ駆け寄って魔導器を調べながら呟き始める。

「ストリムにレイトス、ロクラーにフレック……複数の魔導器をツギハギにして組み合わせてる。この術式なら大気に干渉して天候操れるけど……こんな無茶な使い方して!エフミドの丘といい、あたしよりも進んでるくせに、魔導器に愛情の欠片もない!」
「これで証拠は確認出来ましたね。リタ、調べるのは後にして……」
「もうちょっと、もうちょっと調べさせて」
「後でフレンにその魔導器回して貰えばいいだろ?さっさと有事を始めようぜ」

ユーリがそう言うと、リタ魔導器を調べ続ける残し、ハルカ達は広間を散らばって壊しても困らなそうな物を探していた。本当は壊していい物なんてないのだろうが、ここへ潜り込んだ目的はフレン達騎士団がここへ踏み込めるための「有事」を作るためなのだ。後でラゴウがどんなに困ろうと、何か壊さなくてはならない。

「よし。なんか知らんが、うちも手伝うのじゃ」
「お前はおとなしくしてろって」
「不本意ながら、あたしもそれがいいと思う」
「あう?」

銃を抜いたパティの腕をユーリが捕らえたのを見てハルカも同意した。屋敷前でパティに初めて会った時の事を忘れた訳ではない。あの時のように、また突拍子もない事をされては非常に困るのだ。

その一方で、カロルは愛用の武器を手に柱を叩いていた。ガン、ガンと大きな音が響き、それに気が散ったのだろう。向き合っていた魔導器に背を向けて苛立たしげな声で魔術を詠唱する。幾つもの火球弾がカロルの方へ飛んで行き、彼は寸の所で避けて尻餅を着いた。

「うわぁ!いきなり何すんだよ!」
「こんくらいしてやんないと、騎士団が来にくいでしょ!」
「でも、これはちょっと……」
「何、悪人にお灸を据えるには丁度いいくらいなのじゃ」

苦い顔をしたエステルにパティが宥めるように笑う。そうでしょうか、と呟くエステルの姿を見てハルカは、どちらが年上なのか一瞬わからなくなった。
思わず笑みが零れたのも束の間、扉の向こうからバタバタと複数の足音が近付いているのが耳に入る。ハルカは腰のホルスターから二丁の銃を抜き構えながら周囲を見ると、ユーリ達も既に構え、臨戦態勢が出来上がっていた。

「(流石、みんなあたしより戦うのも場数踏んでるだけあって反応早いなぁ)」

ふ、と笑みを零してから気を引き締める。間もなく荒々しく開かれた扉から現れたのは、案の定傭兵達を引き連れ「人の屋敷でなんたる暴挙です!」と怒りを露わにするラゴウであった。他人の屋敷に侵入し、揚句には物を壊そうとしているのだから当然と言えば当然なのだが、ラゴウのしている暴挙に比べたら可愛いものじゃないか、とハルカは心の中で文句を言う。

「お前達、報酬に見合った働きをして貰いますよ。あの者達を捕らえなさい。ただし、くれぐれもあの女を殺してはなりません!」
「まさか、こいつらって紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)?」
「ギルドに詳しいカロルがそう思うなら、そうなんじゃないかな」

漏らすようにハルカが言うと、カロルは少しだけ嬉しそうな笑みを零した。隣でアイナとリタが魔術の詠唱を始め、ユーリとラピードが先陣を切って向っていく。エステルとカロルも駆け出したのを横目に、ハルカは二丁の銃をそれぞれ構えた。

左右の引き金を交互に引く。続けざまに放たれる魔術の弾は、ユーリ達が対峙するのとは別の傭兵の肩を次々と撃ち抜いた。魔物と違って人の戦意を奪うのは簡単だ。致命傷までいかなくても深い傷を負わせれば下がってくれる。治癒術を使える者が中に居ると、先にその人をどうにかしないと面倒なのだが、武器を持っている方の肩を撃ってしまえば持っているのが困難な状態になって戦意を失うのだ。

数は多いと感じるが、銃撃に怯み易い人間相手だと蹴散らすのも容易い。片膝を着いたまま傷口を押さえる相手を次々に増やしていった。

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