君の傍に

04


なんて久しい空気だろう。顔立ちも背の高さも、記憶に残る実兄とまるで違うのに……初対面の彼に感じるこの懐かしさは、どこから来るのだろうか。

守ってくれた。いい事はいいと、悪い事は悪いと両親が言うより先に教えてくれた。いつも自分を後に回して優先的に考えてくれた。誰よりも何よりも愛してくれた、大好きな兄。

なんで、どうして……この人は、こんなにも兄と似た雰囲気をまとっているのだろう。

「あの……僕の顔に、何かついてますか?」

そう声をかけられて我に返った。アイナは大袈裟に首を左右に振ると、俯いてしまう。

「(何、してるんだろ……情けない)」

溢れそうになった涙と懐かしさは、無理矢理に奥へ押しやった。
大丈夫。泣く場所は、父と父の相棒の所がある。どうしても耐えられなくなったら帰った時、そこで思いっきり泣いてしまえばいいんだ。

「ちっとも変ってないな、ユーリ」
「ん?」
「その短気で飽きっぽい所が、だよ」
「お前も相変わらずだな、その陰険なとこ」

険悪な雰囲気になった気がして、ルシオがふたりの間に入る。睨み合うようにお互いの目を見たままの彼らに、ルシオは遠慮がちに声を出した。

「あ、あの……こんな所でケンカは――」
「してねぇよ」
「してないよ」

声を揃えて否定される。揃えようと思って揃った訳でもあるまいし、よくわからないが……実は仲がいいのだろうか。

「まさか君が、騎士団の試験会場に居るとは……本気かい?」
「ちゃんとオレなりに考えて受験したんだよ」
「…本当か?」
「当たり前だろーが」

疑わしげなフレンの目に、拗ねた子どもの口調でユーリが返す。するとフレンは、追い討ちをかけるように続けた。

「騎士団というのは、礼節と規律を重んじる所だ。わかってるのかい?」
「わかってるよ」
「君が騎士団に入るなんて考えられない。そんな態度じゃ、合格するのも難しいだろうし」
「難しい?」
「騎士団の試験の倍率は、結構高いんだ」

きょとん、としてしまったユーリの手を取ってアイナがまた、言葉を残していく。

『今回も、書類選考で百人近くにまで絞られた受験者の中から、三十人を採用します。剣の実力と素質だけでなく、その人の性格や態度も評価の対象になっているんですよ』
「……マジか」

アイナは頷いて肯定する。そこまで難しいものだとは思っていなかったのか、驚いて目を丸くしているユーリ。むしろ驚きたいのはこっちの方だ。なんの下調べもなく受験するなんて思ってもみなかった。

「だから、無理に試験を受ける事は――」
「やってやる」

ない、と続くはずだったフレンの言葉がユーリの地を這うような声に遮られる。フレンが驚きに目を丸くする間もなく、彼は声を荒げた。

「ぜってぇ合格してやらぁ!!」

眉間にシワを寄せて自分を鋭い目つきで見るユーリに、フレンは笑みを零す。あんまりムキになって言うものだから、アイナも思わず肩を震わせた。

「そうやって、すぐにムキになる所も変ってないな」
「うるせー!コーレア、お前も笑うなっ」

そう言いながら乱暴に頭を撫でられて、髪がグシャグシャになる。それでも笑うのを止めない風に見えたアイナに、ユーリが少し拗ねた。それを気に留める様子もなく彼女はユーリの手を握る。

『三人とも応援してる。試験合格して、一緒に仕事しようね』

初めて、自分よりも大きなユーリの手に敬語でない言葉を残した。呆気に取られている彼に今できる精一杯の笑顔を見せてみる。

「(そろそろ、ウォーミングアップ始めなきゃ)」

するりとユーリの手を放して「またね」の意味を手を振った。背を向けて歩き出す。

「コ、コーレア!」

ユーリの声が背中から聞こえて振り返ると、言い辛そうに唸って目を泳がせた。意味がわからなくて小さく首を横へ倒す。

「あー、その……ありがとな」

アイナの口元が自然な弧を描いたのを、彼女自身気付いてはいなかった。



to be continued...

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