君の傍に

46


太陽の差し込む部屋。今まで整頓もしていなかった自分のスペースを、私服に身を包んだユーリは自分が来た時と同じ状態にして出て行った。

街の人々の引っ越しはユルギス達が手伝っている。その作業中でも、彼らは先にシゾンタニアを去る事にしたユーリに手を振ってくれた。彼の足元には、ナイレンが愛用していたキセルをくわえるラピードの姿がある。

ラピードとふたり、ユーリは街の出口へ向かった。門の所には制服を着たフレンと、見た事のない服を着たアイナの姿がある。ユーリは少し口角を上げてフレンに言った。

「お見送りかい?」
「あぁ。僕らしくないな」
「みんなも出て行っちまうんだな」
「帝国がここを放棄する以上、仕方ないさ」
「ギルドの連中なんざ、とっとと消えちまったしな」
「メルゾムも隊長が居たから、ここが心地よかったんだろう」
「オレも隊長の居ない騎士団じゃ、やってけそうにないもんなぁ」

苦い笑みを零してから、ユーリはフレンを見る。

「悪い。後始末頼むわ」
「ガリスタ・ルオドーとコーレア・フェドロックの魔導器(ブラスティア)暴発による事故死、って報告書を、ユルギス副隊長は黙って受け取ってくれたよ。ユルギス副隊長、ガリスタの事は隊長から聞いて疑ってたみたいだ。だから、僕らの独断も黙って黙認してくれた」

静かな口調でそう話したフレンに、ユーリはちょっとだけ自傷気味に笑った。

「フレン、お前は強いな。オレには真似出来ねぇ」
「君もね、ユーリ。ふたりで生きていこうなんて、君らしい選択だよ。僕は騎士団に残る事で、隊長が目指した事を追いかけてみるよ。あの人に頼まれちゃったし」
「ワン!」

自分も一緒だと鳴いて主張したラピードに三人の視線が落ちる。ラピードの言いたい事をすぐ理解出来たフレンは、すぐ謝罪した。

「ごめん。ふたりじゃなかったな、ラピード」

すると満足そうに尾を振って胸を張るラピード。彼はふたりがこの街に赴任して来た時よりも、ひと回り大きくなっていた。

アイナが黙ってユーリの隣に立ち、彼を見上げる。ユーリも黙って頷いてから、またフレンに視線を戻した。そして左腕に着けたナイレンの腕輪と、その上に着けたナイレンの魔導器を掲げる。その意味を言葉なくとも悟ったフレンは、小さく「大事にしてくれ」と言った。

「じゃぁな」
「元気でね」
「あぁ」

ラピードの歩調に合わせて寄り添い、歩き出したユーリとアイナの背中を視界に入れる事をせずにフレンは言う。

「またな」

それぞれの道の先で、また会えると信じて。



END

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