君の傍に

44


そう思うと、余計「守らなければ」という気持ちが湧き上がってくる。

そこへ静かに、アイナの声が落ちた。本棚の並んでいた方に目を向けると、彼女は辛そうに立ってふたりを見詰めている。駆け寄ろうとしたユーリとフレンに、アイナは小さな声で「来ないで」と言った。

「ごめんね、フレン。フレンのお父さんが死んだの、私のせいだった」
「別に、アイナのせいじゃ……」
「私のせいだよ。だって、私の中にある力のせいで、私が実験を拒んだせいでフレンのお父さんや帝都の下町の人が死んだんだ。自分でどんなに気味悪く思ってたって、私だって力を利用してるの。私の中にある力なの。だから、その気がなかったとしても、利用されたんだとしても……こんな力を持ってる私に、やっぱり責任はある」

だからごめんなさい、とアイナは深々と頭を下げた。

フレンは息を飲んだ。かける言葉を懸命に探した。彼女の言った事は正論のように思えたから、その場しのぎみたいな言葉なんて使いたくないと思った。

「……父は」

ナイレンが見せてくれた生き様、あれはきっと父の姿と同じだった。

「命と引き換えに、自分自身の力に苦しむ君を助けられた事を騎士として誇りに思っていると……今はそう思うんだ」

だから。

「だから、生きてくれないか。父の分も、君を愛した隊長のためにも……僕やユーリのためにも。生きて、幸せになって欲しい」

ごく自然な笑顔でフレンは言った。けれどアイナは頷こうとはしない。それでも彼女の震えている肩が、フレンの言葉に心動かされている事を語ってくれた。それを見てユーリが動く。未だ震えるアイナの肩をそっと引き寄せて腕の中に閉じ込めると、言葉を紡ぎ始めた。

「さっき勢いで言ったけど……オレさ、アイナ。お前の事すっげぇ好きなんだ。ずっと傍に居て欲しいって、そう思ってる」
「私、そんな事言って貰っていいような人間じゃないよ。私と居たら、お父さんやランバートみたいに、私の力の事背負わなきゃいけなくなるもん」
「んな事わかってるよ。わかってて、それもひっくるめて好きだって言ってんだ」
「……私のせいで、いっぱい人が死んだんだよ?」
「それも一緒に背負う」
「でも」
「アイナ」

遮ったユーリは、彼女がピクリと体を跳ねらせたのを感じながら口を開いた。

「オレと一緒に生きてくれ……頼む」

まるで縋るように強く抱き締められたアイナは、困惑しつつ静かに問う。

「……いいの?私……」
「オレの方が頼んでんのに、悪い訳ねぇだろ?」

アイナの顔が、くしゃりと歪んで涙が流れる。けれどそれはユーリの胸に隠れて、誰にも見えなかった。恐る恐るアイナの両手がユーリの背中で服を掴む。

「私……私も大好き、ユーリ」

ナイレンが傍で安堵の息を零した気がした。



to be continued...

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