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悔しいけど、
僕はお前の代わりにはなれない。
「おはよう、小梅」
“ん…おはよ、赤司”
小梅の朝は、僕のものだ。
唯一、小梅がテツヤと付き合い初めても変わらなかった僕の特権。
中学時代は毎朝迎えに行った。
高校になってからはモーニングコール。
“じゃ、行ってくるね”
「ああ、気をつけて」
“行ってきます、行ってらっしゃい”
「行ってらっしゃい、行ってきます」
お決まりの言葉で電話を切って、小梅はテツヤと仲良く学校に行くんだろう。
きっと、仲睦まじくテツヤは珍しく微笑しながら小梅はとびきりの笑顔で。
この時ばかりは京都に行ったことを悔やんだ。
毎朝モーニングコールを切って、小梅が幸せなら良い。小梅は今幸せだ。
自分にそう言い聞かせて朝練に臨む日々。
ところが今はどうだ。
「あれ、赤司学校は?」
「しばらく休校になったんだ」
「休校? どうして?」
「最近、通り魔が多くてな。安全のために」
「そうなんだ」
あの日から、学校はしばらく休んだ。
単位は落としたりしない。
家で1日ずっと練習もしている。
全て正しい僕に死角は、ない。
「黒子くん、まだかなあ」
無邪気で可愛らしい笑顔で、小梅は待つ。
来もしない相手――テツヤ――を待つ。
「…黒子は今日は朝練が入ったらしい」
「え?」
「代わりに俺が送ることになった、朝と言えど不審者の可能性は捨てられないからな」
「そ、か。よし、じゃあ学校行こ」
嘘を吐く。
息をするように嘘を吐く。
嘘を吐くことに慣れきってしまった自分が、どうしようもなく情けない。
「ありがとう、赤司」
「構わない」
「これから自主練?」
「ああ」
「頑張ってね。行ってきます、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい、行ってきます」
小梅の笑顔が胸に刺さる。
嘘をついて、嘘を重ねて、それでその嘘に気付いた時のことなんか考えない。
僕は、最低だ。
最低、でも。
小梅の笑顔を守りたい。
テツヤ、お前がいなくなって小梅を笑顔にできる方法なんて嘘をつき続けるくらいしかない。
悔しいが、小梅にとってお前の代わりなんていない。
20121211
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