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episode.3






「精市?」

「あ、蓮二だ」



丸井に彼女のことを伝えた2日後。

部室に向かう途中に会った精市はふんわりと笑みを作っていて、見てわかるほど上機嫌だった。



「上機嫌だな」

「あ、やっぱり分かる?」



とても、嬉しそうで幸せそうだった。

ああ“彼女”関連か、と瞬時に理解して苦笑した。



「それでは部の者に示しがつかないぞ」

「大丈夫、その辺の切り替えは上手いんだ」




今にも鼻歌でも歌いだしそうで、困った部長だと呆れまじりに溜め息を吐き出す。勿論、良い意味でだ。



「さっきの美術の時間、ちょっと俺だけ長引いちゃって。片付けしてたら彼女が来たんだ」

「話したのか?」

「まさか、扉のところで気付いてどこかに行ってしまったよ」



でも、良いんだ。



「彼女を見ることが出来たから」

「…そうか」



丸井の恋愛の感覚も予想外だったが、精市の恋愛の仕方も予想外だった。

こんなに柔らかい表情で、優しく優しく、壊れ物みたいに相手を想うと思わなかった。


精市にとってプラスになるのなら、良いことだ。



相手が、誰であっても。



「彼女は、男が苦手だぞ」

「え、だから? それが好きになっちゃいけない理由じゃないだろ?」

「では、近付くのか?」




彼女のデータを得て、精市のプラスである内は良いがそれがマイナスになる可能性がかなり高いことが分かった以上、止めるように言うなら、まだ近付いていない今しかない。

コンディションは大切だ、来年は3連覇の大切な年。響いては困る。



「んー…振り向かせて見せるけど」




にこにこと、それでも確信めいた目を見せた精市につくづく怖い男だと認識した。






2013 03 05





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