episode.1 「…そこにいたのか、丸井」 放課後の教室で、机に突っ伏していた丸井を見つけた。 顧問が出張のせいで珍しくオフになった部活。(自宅での自主練は義務付けられているが) いつもなら仁王や赤也とゲームセンターにいるだろう丸井は、ここで俺を待っていた。 正確には、“俺の話”を待っていた。 「……柳、」 そっと顔を上げた丸井は目に見えて分かるほど狼狽し、目を泳がせる。 なるほど丸井は予想外の行動パターンだった、どうやら俺のデータもまだまだらしい。 丁度紅葉が色付いてで窓から吹き込む風が冬の香りをほのめかす、教室に男2人と言うあまり気持ちの良くないシチュエーション。勿論、恋も何も始まらない。 と言うより、恋してるのは丸井だけだ。 「……ど、だった…?」 「身長150センチ、体重46キロ、美術部部長、特技は家事全般、趣味は絵を描くことと読書。子どもと花と…そうだな、自然が好きなようだ」 「バッタとか? あ、いや、女はそう言うの嫌いか…」 「子どもと遊ぶ上で触れることの多い昆虫は得意な方らしい」 「まじかよぃ、俺と一緒じゃん」 弟がいる丸井は小学生の遊びに詳しいし、抵抗がない。 「…あと、バレンタインだが」 「!」 「くれと言えばくれるそうだ。彼女の友達の彼氏があまりにチョコが貰えず、彼女に頼んだらしい」 「(そいつ、すげえ不憫…)」 あー、言えば良かった!と悔しがる丸井。一喜一憂したりするのは恋愛の特徴だ。 正直、直球に告白してしまうタイプだと思っていたが違ったらしい。 まさか俺に聞いてくるとは。かなりの慎重派と言えるだろう。 しかし、悪いがこれだけは言わせてもらおう。 「それから、」 と、そこで切って。 「精市の想い人だ」 その瞬間、丸井の血の気が引いた。 (小さく諦めねえよ、と聞こえた) 2013 03 05 ← → back top |