30.いつもの朝の始まり。

















――――…目が覚めた。






「……何してんの」

「おはようのちゅー?」

「さっさと降りて」



私の上に覆い被さる臨也にさっさと降りるように言って、体を起こす。


何か、夢を見ていたような。



「………あ」

「え?」



思い出した。

そこで初めて周りを見渡す。
臨也、と私の家だ。

臨也を見つめて確認する。高校生じゃない、“今の”臨也だ。



「(………夢?)」

「わかちゃん、朝御飯何食べたい?」

「サラダ」

「分かった、作ってくる」



にっこり笑う臨也はリビングへ消える。

それをぼんやり見送って、私ものそのそとベッドから這い出た。


冷たいフローリングに一瞬怯んで、また指先を乗せる。ゆっくりと起き上がって臨也のいるリビングに向かった。



夢だったのか、あれは。

臨也は、何も言わなかったな。




いつも通りの朝、
いつも通りの旦那、
いつも通りの私。


何もかもいつも通り、あの異変だらけの生活とは違う。


カウンターキッチンに立つ臨也の後ろ姿は心なしか上機嫌だ。



「臨也」

「どうしたの?」

「愛してる、って言いたくなった」



そう言うと、臨也は心の底から幸せそうに頬を緩めた。










30.いつもの朝の始まり。




私が“いつもの日常”になかったものに気づいたのと、臨也が私の名前を呼んだのは同時だった。



「ねえわかちゃん」

「…っ」



これは。



「“あの時”やっと名前で呼んでくれたよね」



「臨也!!」

手首の、これは。



「嬉しかったよ」



この世界は、“何処”だ。



「……い、ざ」



ここが夢でないと言うのなら。
ここが、現実なら。

――――私が高校生だったあの世界は何なんだ。

私の、私が、保健医だった世界が偽りだと言うのか。



手首で主張する天然石のブレスレットが現実を叩きつけた。







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