――――…彩が、これだけで終わる女なんかではなかったのだ。
あれから数日、いつもの日常が始まった。
「折原、その鮭頂戴」
「わかちゃんの野菜炒め頂戴」
「ん」
「( 夫婦だよなあ…)」
教室での昼食。
教室に彩の姿はない。
私と臨也と岸谷での昼食。
岸谷が思ってることはなんとなく想像がつく。実際、未来では夫婦なのだから問題ない。はず。
ただ、やっぱり臨也には保健医の私を見てほしいと思ってしまうけど。
梓が気にしていたようなことにはならなかった。お互い、この変な状況を楽しめるくらいには混乱から立ち直っていて、普通の暮らしができていた。
「それ、お揃い?」
「ん?ああ、これか」
岸谷の視線の先には臨也と私の手首。交互に見比べながら手首――――ブレスレットを見ていた。
「もう付き合えば良いのに」
「え、付き合ってるんじゃないの?」
「
何自信満々に答えてんの」
いつ付き合ったの、いつ。
いまいち状況が掴めない岸谷は疑問符を飛ばす。
臨也ママの野菜炒め食べながら顔をしかめると心外だと言わんばかりの顔をされた。いやいやいや。
「図書室で、」
「いや、あれは違うでしょ」
告白されてない。
あれを正しく言うと、強姦まがいだ。
逃げなかった私も私だが、あれは告白とは言わない。
「なら今しよう」
「は?」
今って何を。
話の流れは告白だけどまさかそんな。
「わかちゃんのこと愛してるから付き合って」
「軽!ムードもくそもねえ!!」
「倉田さん、女の子なんだからそんなこと言わないで」
「新羅、せっかく俺が告白してるのに邪魔しないでよ」
「そういう問題か、問題なのか」
頭痛がする。激しく頭痛がする。
何なんだ、この軽い感じは。
クラス中の視線を集めてしまったから恥ずかしいったらない。
と。
教室の端で悲鳴が聞こえて。
「!」
何事かと教室の端――――入り口付近を見て、絶句した。
28.教室の空気は一変する。
「楽しそうだね、私も混ぜて」
ナイフを持った、彩が立っていた。
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